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ノックス×ロイのお題★厳選5

■冗談じゃねぇ
■腰痛
■クソガキ
■先生
■共犯者
 

※なお、10のお題もあるそうです。ノックス狂いの方、試しては如何?
(お題提供:『ノックスロイ好きの為のお題』様



■冗談じゃねぇ

風が強い夜だった。幕舎のテント布が煽られ、バタバタをやかましく鳴っていた。まさか吹き飛んでしまうんじゃねぇだろうな、と冗談にならないことを考えながら、ノックスは昼間の検死の結果をまとめていた。吐き気がするような焼死体の写真と、解剖中に自分が走り書きしたメモを突き合わせ、カルテを埋めていく。集中していたのか、誰かが幕舎に入り込んでいたことに気付かなかった。

「火・・消えてますよ」

そっと声をかけられ、ぎょっとして振り返ると、黒髪の青年がはにかむようにして立っていた。確かに、ノックスがくわえていた煙草は、半分も吸っていないのに火が消えてしまっていた。ただ、無意識にフィルターを噛み潰していたらしい。
青年・・ロイ・マスタングの指先には、小さな火が灯っていた。そう、彼は若くして、炎を自在に操る錬金術師なのだ。

「よろしければ」

「人間をさんざん焼いた火でか?」

ロイは眉を曇らせた。そんな言われ方をされるとは、思っていなかったのだ。視線を下に逸らし、拗ねたように「同じ火じゃありません」と小声で抗議するのが精一杯のようだった。

「勝手に入ってきたのか」

「一応、ノックはしましたよ?」

「聞こえなかった」

「風が・・すごいですからね」

「何の用で来た? こっちは見りゃわかるだろうが、忙しいんだ」

「終わるまで待ってもいいだろう? こんな夜は・・テントの中の音も外には聞こえない」

「何を考えてる?」

「あなたが今、思いついたことと、多分、同じ」

「・・冗談じゃねぇ!」

だが、ロイは真っ黒い瞳をこちらに向けて、ノックスを見据えていた。

「冗談なんかじゃありませんよ」

青白いほどに顔色が悪いくせに、唇のみがぬれぬれと紅い。その口角をうっすらと上げて、ロイは微笑してみせた。



■腰痛

「ふざけんな。そーいうのはだなぁ、女相手か、おまえさんの親友だっつー眼鏡のにーちゃんにでも頼め。おりゃあ忙しいんだ」

ノックスはそう吐き捨てて、机に向き直った。

「だから、待つと言ってるのに」

ロイはまったく堪えた様子もなく、勝手にノックスのベッドに腰掛け、軍靴を脱ぎ出した。

「くつろぐなっ!」

「おとなしくしているから」

「そういう問題じゃない。帰れと言ってるんだ」

「先生んとこのベッドのマット、替えたのか? 柔らかくて寝心地がいい」

「特注だからな。解剖中は立ちっぱなしだわ、かと思えばカルテ作成に追われてデスクワークだわで、腰にくるからこないだのオフで取り寄せた・・おまえさんを寝かすためじゃねーぞ」

「腰・・痛いのか。揉んでやろうか」

「いらん・・頼むから、話し掛けんでくれ。こっちは書き物をしてるんだ」

ロイは軽く肩をすくめ、ベッドに長々と寝そべった。
柔らかいマットって、腰痛に悪いんじゃなかったっけ? まぁ、前の薄っぺらな固いベッドが腰に良いかと言えば、それも確かに疑問だけれども。

「腰痛の原因のひとつは、私かな?」

「んなもん、知るか。話し掛けるなと言ったはずだぞ。次しゃべったら、つまみ出すからな」

ということは、黙っていたら、ここに居てもいいんだな・・と減らず口を叩きそうになって、ロイは慌てて言葉を飲み込む。今日のノックスはいつもにも増して機嫌が悪そうで、下手をしたら本当につまみ出されかねない。

どうせ待っている間に読む本を持参するんなら、小説じゃなくてマッサージの本にすれば良かった。
うん、次に来る時には、腰痛に効くツボの本でも取り寄せて、読むことにしよう・・ロイはそう決意しながら、黙々とペンを走らせているノックスの背中を見つめ・・やがて、ポケットから文庫本を取り出して栞のところで広げて読み始めた。



■クソガキ

いい気なもんだ、まったく・・ノックスは寝入っているロイの顔を見下ろして、ため息をつく。
朝になっていた。夜中にあれだけ激しく吹き荒れていた嵐も去ったらしく、採光窓から洩れてくる朝陽は爽やかの一語に尽きるというのに・・なんだって、野郎ふたり狭っ苦しいベッドに並んで寝てたんだか。

ノックスは一応、下着とズボン下は履いた格好で煙草をふかしており、ロイは毛布にくるまっているとはいえ、まだ全裸であった。

以前・・ある戦場で医薬品が尽き、処方してやる精神安定剤が無くなったことがあり、任務の過酷さのあまり、不眠や情緒不安定に悩んでいたロイを落ち着かせようと、抱いたことがある・・あれは緊急措置だと思っていたのだが、それ以降もすっかりなつかれてしまった。
まぁ、単なる性欲処理だと思えば結構な話じゃないか・・そう割り切りたいのだが、相手はさらにもう一歩、こちら側に踏み込んで来ようとする。それがノックスには煩わしかった。

気分がすぐれないまま1本吸い終わり、もう1服しようとして、テント内がかなり曇っていることに気付く。外に出るか、とベッドから降りて、シャツとスラックスを身につけた。デスクの椅子に腰掛け、軍靴を履いて靴紐を結ぶ。

「先生・・?」

「あ、起きちまったか。寝かしておくつもりだったが。ちょっと、な」

ノックスは苦笑して、人さし指と中指を立てて“煙草”のジェスチャーをしてみせる。

「じゃあ、すぐに戻ってくるんだな?」

勝手にひとりで納得したように、ロイはコトンとベッドに倒れ込んでしまった。おやと思う間もなく、軽い寝息を立てている。

「本当にまったく・・このクソガキが」

戦場では平然と人間を焼き殺しているこの男が、その反動のように夜は情緒不安定に陥り、時には娼婦のように振る舞い・・そして、こんな無邪気な寝顔を無防備に晒すことすらあるとは、誰が想像できよう?

ノックスは外の新鮮な空気を吸い込み、昨夜のことを振り払うように軽く伸びをして・・軽い痛みを覚えた腰を押さえて「いててて」と呟いたものだ。



■先生

戦争が終わり、中佐に昇格して英雄扱いされたのも束の間。
ロイ・マスタングは東部への異動を告げられた。

マース・ヒューズとの別離は辛くない・・と思ったから、どこに勤めることになっても構わないと考えていた。
どうせ親友は週に1度ならず電話をかけてくることだろう。遠隔都市への通話料はとんでもなく高額なのだが、そこはそれ。中央軍司令部から公用を装ってかければ、ロハになる。
いや、無理してかけてくれなくてもいい。昔の恋人の、デレデレな愛妻自慢なんて聞きたくもない。

だから・・別に。

しかし、荷物をまとめながら、ふと思い出した顔があった。
ああ、そうだ。戦場から戻ってきてから、逢ってないが、あの人も中央務め・・というか、そもそも自宅がこちらだと聞いている。

異動に伴って、連れて行きたい部下がいたらピックアップするようにと、人事リストを渡されていたが、軍医の欄などは載っていなかったし、そもそも部下ではないのだから・・そんなこと考えたこともなかった。

中央勤めなら、なんかの機会にひょっこり逢うこともあろうが・・東部に行ってしまえば、そんな偶然も期待できない。
逢わなくたって、どうということもない筈なのに。
戦場から離れて、もう眠れない夜を怯えて過ごすこともないから・・薬を飲まなくても眠れるようになったのだから、医師の助けなど、もう必要ない筈なのに。

「マース、ノックス医師のご自宅の住所、調べてくれないか?」

尋ねたら怪訝な顔をされたが、世話になったから東部異動の挨拶をしたいと言ったら、納得してくれたようだ。
口先では「あのな、自宅住所なんてプライバシー情報は、一応、機密扱いなんだからな?」と文句を言いながらも、その日のうちに走り書きのメモをこっそりと渡してくれた。
本当に逢って、挨拶をするつもりなのかどうか、自分でも分からない。ちゃんとした挨拶ができるかどうかすらも・・かといって、他に何をしたいと自分が思っているのかすら、分からない。ただただ、衝動的に『もう逢えなくなる』という想いに突き動かされていたのだ。

「失礼にならんよう、手土産ぐらいは持って行けよ」と、ヒューズに言われるまで気付かなかったぐらい、ぼんやりしていた。
「手土産は何がいいんだ?」と尋ねると「ンなもん、自分で考えろ」とそっけなく返された。それでも何も思いつかず、じっとヒューズの目を覗き込んでいると、やがて「だーっ、もう、まったくおまえは!」と唐突に喚き始めたかと思うと、引きずるように菓子屋に連れて行かれ、菓子折りを選んでくれたものだ。




その菓子折りを持って、メモを頼りに自宅に向かう。
まずは、なんて言えばいいのかな・・頭の中で何度かシミュレーションしてみるが、なかなかうまい言葉が出て来ない。これは一度出直した方がいいな、と諦めてきびすを返そうとしたときに、通りの向こう側に思いがけずノックスの姿を見つけた。

「あ・・先生・・」

声をかけようとして、振ろうとした手が止まってしまった。ノックスの隣には、妻らしき女性と、自分と同じぐらいの年齢の青年が並んで歩いていたのだ。

そういえば、結婚してるって言ってたっけ。で、子どもも居るって・・でも、もっと小さな子どもだと思っていた。

どうやら大量の買い出しの、荷物持ちのために駆り出されたらしい。腰痛持ちだというのに大きな紙袋を持たされて、ブスッとした顔で歩いているノックスと、苦笑しながらより重たい荷物を持ってやっている青年・・私は一体、何を期待していたんだろう?

ロイはいたたまれなくなって、その場を駆け去っていた。



■共犯者

多分、人間関係なんてものは、何かを共有することで発生するものなのだろう。
それが家庭なら家族であり、仕事なら同僚であり、共通の敵なら戦友になり、秘め事なら・・まぁ、それだけの話だ。

だから、その何かを共有できなくなった時には、関係は破綻する。

「戦争から帰ってきて、あなたは変わってしまったわ」

妻はなにかとそう言ってなじるが、こっちとしてはできるだけ『家庭』という共有財産を維持していたつもりだった。
ただ厄介なことに、妻とは共有できないものができちまった・・それはイシュバールの悪夢であり、軍の犯した禁忌でもあったわけだが。

そんなものには触れさせたくないというのは、男として妻を守りたいという自然な気持ちから発するものだったのだが、妻にはそれが不満だったようだ。
夫婦なんだから、あなたの苦しみも私の苦しみにしたいの・・それは妻にしてみれば愛情の発露なのだろうが、こちらから見れば、全てを取り込み飲み込む貪欲なエゴイズムに感じられ・・その綱引きに疲れ果ててしまい、あっさりと「頭を冷やしましょう」と提案された別居に同意していた。



だったら・・あのクソガキとは何を共有していたというのか。



妻と息子が出ていったまま・・一時的な別居生活だと思っていたから、残された荷物に触れることなく、それが永続的な別離となった後は面倒くさくて、片付けることもしなかった乱雑な自宅にひとり、煙草なんぞを蒸かしながら、ぼんやりと考えている。

非道な人体実験? それだけなら『共犯者』とでも称することができよう。
だが、他人にはとても言えそうにない体験・・あれは共有しているといえるのだろうか?

「アレに関しちゃ・・あいつが教唆で、俺が主犯・・ってとこかな」

自嘲しながら、フィルターまで燃え尽きて、崩れ落ちそうな煙草を灰皿に押し付ける。
火は・・いつの間にか消えていた。よろしければ、と弱々しく笑って手を差し出す、息子のような年齢の青年の声が聞こえた気がした。
その青年に唆され、関係を持った。だが、それは共有と呼べるような生易しいモノではなかった。そう、共犯というよりは・・俺の単独犯行とでも言うべきか。


でも、先生? 主犯より教唆の方が罪が重いんですよ?


聞こえるはずのない声。
疲れているのかもしれないな、と思い、ノックスは次の煙草に火を灯すのをやめた。


確かに刑法では、そういうことになっているな。だったら・・共犯にまけておいてやるさ。

だが・・共有する何かを失うことで関係が終わるのなら、最初から共有していない関係はどうなるのだろう?
その答を知る前に、ロイが東部へ異動になったと人づてに聞いたのは、それから数日後のことだった。



【後書き】ノックス好きの友人がお題を作ってみたというので、早速挑戦してみました。20もあったお題をぎりぎり5つまで絞ってもらったので、どちらかというと、すごくオーソドックスで「ありがち」な話になってしまいました。
やっぱり、も少し捻って、マニアックなのとか、ムスタング氏の話にするとか、リン×ロイ×リンのシリーズに突っ込むとか、した方が良かったのだろうか・・と思いつつ。
まぁ、ノックス×ロイ初心者には取っ付きやすい作品じゃないかと、ポジティブシンキングしてみるテスツ(苦笑)。

しまった、このお題、全然笑うとこねーよ!(←いや、笑わせなきゃいけないという主旨ではないと思うが)
初出:2005年10月3日
4、5追加:同月14日

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