「なんだこれは」
「何って、見て分からんのか。靴だぞ」
「靴なのは分かっている」
「だったら聞くな、クソガキ」
「そうじゃなくて、なんで靴なんかくれたんだと尋ねてるんだ」
「・・戻ってくるのが遅くなったからな。10日で帰れると思ってたんだが、いろいろあって。それに、土産も買ってきてやると約束していたし」
「その土産が、なんで靴なんだ」
「あのなぁ、おまえさんの履いている、その靴。先が擦り切れてるじゃねーか。いくら軍靴が丈夫だっつたって、そのうちに穴があくぞ。第一、だ。いやしくも仕官職なら、身なりもそれなりに、だな。せめて靴ぐらいきちんとしたものを履かねーと」
「そういうものなのか?」
「それが分かってないから、おまえさんはガキだっていうんだ」
「そういう貴方の靴だって・・」
「俺はいいんだよ。出世はとうに諦めてるから。でも、おまえさんは上を目指してるんだろう?」
「靴なんかで出世が決まるもんか」
「それが決まるんだよ、大人の社会ではな。外見や服装なんてのは、意外と見られてるもんだ。余裕がない時には、せめて靴の甲の部分だけでよく拭いておいて、だな・・おい、人の話を聞いているのか?」
「説教をしたがるのは、オッサンの証拠だぞ」
「いいんだよ、俺はオッサンなんだから・・あ、こらこら、履くんじゃない」
「靴は履くもんじゃないのか? これは飾り物か?」
「そうじゃなくて、今はまだ履くなということだ。新しい靴はな、朝一番におろすもんだ」
「田舎のばーさんが、そういえばそんな迷信を口走ってたな」
「迷信か。迷信には違いないが、縁起は一応、担いでおけ。特に戦場のようなギリギリの状況下では、ほんの小さな運が生死を分けると・・こら、履くなと言っとろうが」
「ぴったりだ。よく私の足のサイズなんか知ってたな」
「知らねぇよ。ただまぁ、こないだ足を掴んだ時に、このぐらいだったな、と」
「・・まさか、靴屋でそんなジェスチュアをして、サイズを指定したんじゃないだろうな」
「仕方ないだろ。何インチって知らなかったんだから」
「店員、妙な顔をしてただろう」
「甥っ子で、こないだ取っ組み合いしたときに、これぐらいの足をしてたように思う・・と説明したら納得していた」
「ふん、取っ組み合いには違いないが・・私は甥っ子扱いか」
「不満か」
「当然だ」
「じゃあ、なんて言って欲しかったんだ? まさか愛人だとでも?」
「・・それじゃまずいか」
「まずいだろうが」
「だったら・・わざわざ靴じゃなくても良かったのに」
「土産、何が欲しいか、一応、聞いてやったのに、おまえさん、何も言わなかったじゃないか。他の連中なら葉巻きの1箱も買ってやれば喜ぶが、おまえさんは酒もタバコもやらねぇし・・かといって、女子供じゃあるまいし、お菓子や玩具というわけにもいかんだろうが」
「他の連中って・・私以外の誰かにも、土産を買ってきたのか?」
「なに恐い顔してるんだ? 今回はおまえさんだけだよ。いちいち休暇のたびにそんな大盤振る舞いしていたら、俺の財布がもたねぇ」
「そっか。私だけか」
「でもさ、土産なんかより・・ずっと居てくれたら、それだけで良かったのに」
「・・バカガキが・・おい、いい加減脱げよ。履きながら寝るつもりか?」
「寝るつもりってことは、今夜は泊まっていっていいんだな」
「帰る気があったんなら、自分のテントに帰れ」
「やだ」
「・・おまえさん、ほんとにガキだな」
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