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■約束■


いつかこんな日が来ると思っていた…
ただそれが…
予想より早かっただけ…
ただそれだけ…

【それはほの暗く儚い約束】

初めて逢ってから10年たった。長いようで短い時間。印の力はなるべく使わないようにしていたけれど、出逢ったときには、もう大分使っていた。60まで生きればいい方で、もっと長生きした奴なんていない。たった10年。リンが不老不死の法を探している時や、皇帝になるためにシンに居た時は1人だった。皇帝になってからは次の皇帝を決めるために各民族の娘を選ばされたが、当分決める気はないと言い、私と暮らしていた。どうせ10年もすれば、私は死ぬ。そうすれば、皇帝としての仕事、皇子をつくる事ができる。リンも子供じゃなくなるし、辛い思いもしなくて済む。
《運命的ね》なんて、思ってたわ。リンが知ったら怒るかしら?
シンで暮らすことになって戸惑うことばかりだった。嫌がらせなんて日常茶飯事だったし。シン国語を覚える気は無かったわ。リンの居る時はアメストリス語で話してたの。他の人とは話す機会があまり無かったから。でもなかなか楽しかった…
「ただいマ。レオ?どうかしたのカ?」
窓の外を眺めているレオニードの頬には涙が流れていた。
「え?何が?」
「涙ガ…」
指先で涙を拭うと、優しくキスをした。
「やだ、アタシ泣いてたの?」
顔を赤く染めながら笑った。自分でもなんで泣いてたのかわからない。
「何かあるなら…ちゃんと俺に言っテ」
そう言って抱きしめてくるリンが愛しくて、また涙が零れた。
「わかってるわ」
大丈夫だからと抱きしめてくるリンを押し離す。
2週間前、私は突然倒れ、医者に見てもらうと『手遅れ』と言われた。寿命だったのだ。私の身体は印に蝕まれ限界だった。リンは私を故郷のヴァルドラに連れてきてくれた。最後の日まで何週間かこっちで暮らそう…と。こうして私はココ、ヴァルドラにいる。さっきまで私は今までの人生を考え直していた所だ。
「本当に大丈夫なのカ?」
「んもう、心配性ねぇ。アタシが大丈夫って言ったら大丈夫なの」
「なにそレ」
2人でクスクスと笑う。最後の日まで楽しく暮らしたい。それがレオニードの望みだ。
「ふふ……げほっ…げほ…」
「大丈夫カ?」
「ん…平気…よ」
苦しそうに胸を押さえながら咳き込む姿は痛々しく、先が長くないことを知らせる。

「ごぼっ…ぐぅ…」
レオニードは突然血を吐いた。
「レオ!しっかりしロ!」
ベットサイドに置いてあるタオルで口元と血で汚れた身体を拭ってやるが、なかなか止まらない。
「がはっ…」
ボタボタと血が白く綺麗な指の間からつたい落ちてゆく。
咳が止まると、急いで痛み止めを飲ませ、ベットに寝かせた。リンは苦しそうに呻くレオニードの手をしっかり握る。やがて落ち着くとそのまま眠ってしまった。
「大丈夫…だよナ」
急に不安になったリンは独り言を呟くと、眠っているレオニードの頬を撫でた。熱を、生きている証を確かめたかった。
夜になっても目覚めないレオニードに、何度も何度も口付けをする。最近は睡眠時間が長く、なかなか起きない。身体がだるいと言っていた気がする。強く手を握り、もう少しだけ傍に居たいと、居るはずのない神に願う。
ボーっとしていると、不意に優しく頭を撫でられ、元気そうなレオニードの様子に安心する。
「…良かった」
ギュッとしがみつくといつもよりずっと冷たい体温が不安な心を更に煽った。
「ねぇ…リン」
「…何?」
「……………」
長い沈黙を不思議に思い顔を上げると、レオニードは悲しそうな表情をしていた。
「アタシが死んだら…忘れて」
それは残酷な言葉だった。
「………本気なノ?」
忘れろ?そんな事出きるわけがない。
愛しい人の温もりを、声を、顔を忘れるなんで出来ない。
「ええ…」
今にも泣きそうな顔をして笑うレオニードが信じられなかった。
翌朝、レオニードは起きてこなかった。
冷たい風で木々がそよぐ。リンは協会の片隅にしゃがみこんでいた。
「レオ…」
あの夜、レオニードは一人で寝たいと言っていた。だから俺は別の部屋で寝たんだ。きっと、もうダメだとわかっていたんだ。最後まで一緒に居たかった。
泣きたくなる気持ちを抑え、リンは呟いた。
『俺は一生お前だけを愛し続ける…』
強い風が吹き付け、墓に飾った花を揺らした。まるでリンの言葉を否定するかのように…。
『ずっと忘れないから…』
リンは家に向かって歩き出した。
リンの居なくなった墓にふわりと優しい風が吹き、花が揺れた。


END

【感想】割に早く頂いていたのですが、掲載が遅れてしまってごめんなさい。ゲーム版キャラレオニードを心より愛する屍姫さんによる、リン×レオニードの小説です。死ネタだようと凹んでいらっしゃいましたが、いえいえ、最期をリンの許で飾らせたレオが幸せそうで、とても良かったと思いますよ。ありがとうございました。
初出:2006年10月30日

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