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It doubts



絶対・・あのときは、グリードじゃなかった。
あのチビを懲らしめるためにって、グリードにレイプさせた時のこと。

「人柱でなければ、もうひとつ空いてる色欲の席につけてやるところだな」

親父殿は、目の前の痴態に飽きてしまったのか、眼を逸らしていて、俺は最初から「見たくない」と顔を背けていて・・ふと、妙な胸騒ぎを覚えて、つい、振り向いた。
あれ・・グリード・・じゃない? まさか・・?

「いっ・・糸目の?」

思わずそう叫んでいた。一瞬、驚いたように細い目を見開く、あれは絶対に、石頭ヤローの表情じゃない。あのチビも、最初は死に物狂いで抵抗していたくせに、いつしか、むしろ積極的に受け入れているような・・親父殿は、その様子を指して「色欲の席につけてやる」と言ったのだろうが、もしかしたらあいつ、糸目のだって分かってて、ああなんじゃないだろうかと思えて。

だけど、駆け寄る間もなく「ちぇ、きたねーなぁ・・かかったらどーすんだよ。オイ、これで満足かよ、親父殿?」なんて吐き捨てて起き上がり、チビの手を乱暴に振り払った男は、やはりグリードだった。
あっけに取られていたせいか、鎧の弟を押さえつけていた手が緩んでしまう。チビに駆け寄った鎧のは、2、3言の会話を交わしてから、戻ってきた。

「あのね、兄さんが、トイレットペーパー無いかって」

「無くはないけど・・えらく、場の緊張感を削ぐ会話だなぁ・・おい、グラトニー、持って来てやれ」

「あーい」


その後、身支度を整えたチビに、コソッと「さっき・・もしかして、糸目のじゃなかったか?」と尋ねるが「さぁ? なんのこと?」と、素っトボけられた。
とりあえず、こいつらも人柱として使う時まで監禁しておこうと、空いていた部屋に放り込む。グリードは・・以前のグリードも離反したのだからという理由で、軟禁ってほどじゃないけど「お目付け役」をつけておこう・・ということになったので、俺がその役を買って出た。

「おまえ、俺んこと、大嫌いだったんじゃねーの?」

「大嫌いだけど、仕方ないじゃん」

「まぁ、他にそういう役目なんざ、務まりそうもないわな。大総統サマは公務がお忙しいだろーし、グラトニーやスロウロは鈍くさいし、プライド殿はお高くとまってて、こーいう雑務はお嫌いだろうし、俺も息が詰まる・・ラスト姐さんはどーしたよ? ボインと一緒なら、この陰気なアジトにいても、ちったぁ目の保養ができるんだけど」

「ラストは・・居なくなった」

「出てったのか? いや、違うだろうな。あれは親父殿の信頼が厚くて、べったりだったから。死んだのか・・そっか。だったら、消去法でおまえになるわけだな・・って、相部屋かよ?」

「外から鍵かけられるよか、マシだろ?」

「そいつは・・お優しいこって・・ところで、血まみれだからシャワーでも浴びたいんだがよ、お目付け役殿?」

「勝手に浴びれよ、そんなもん・・あ、勝手にさせたら、いけねーのか・・面倒だなぁ」

「だったら、一緒に入るか?」

「・・どあほうっ!」

もしかしたら、何か勘付いたのだろうか? グリードが糸目のの顔で、イヤな笑い方をした。




夜になったからって、無理して眠る必要もない不死の身体ではあるが、眠りに引き込まれていく感覚は悪くない。例えそれが、硬く冷たい寝床であっても、だ。

「相変わらず、粗末な住環境だなぁ・・100年も経って、一向に待遇改善された様子がねーんだから、おまえらってホント、親父殿の狗っつーか、なんつーか・・俺の子分共だって、もっとマシなとこに住ませてやってたぜ? 大体、地下室は季節に関係なく冷えるし、よ」

「おまえの欲求をいちいち通してたら、きりねーだろ。なにしろ強欲なんだから・・黙って寝ろよ。眠っちまえば、ベッドが多少硬かろうが柔らかかろうが、大した差はねーんだから」

「身体は一応、人間のモンだぜ。ホムンクルス並に冷遇したら、壊れるかもしんねーよ?」

「こいつの身体はそんなにヤワじゃねーと思うけどね。改善要求は何だよ?」

「寒い」

「毛布足りねぇの? とりあえず僕の分貸そっか? 今度、買出しに行ったときに、厚いの買ってきてやるわ」

そう言って毛布を差し出した手首を、掴まれた。その感触があまりに冷たく、硬いのに気付いて見下ろすと、その手はグリードの“硬化”したものだった。

「全身そーやって石化しておいたら、風邪も引かねーんじゃねぇ?」

「つれないねぇ。あーいう色っぽい目で見上げておいて、そーいう冷たい仕打ちは無いんじゃないの?」

「てめーなんざ相手に、そんな顔するかっ!」

「じゃあ、この身体の持ち主相手? どーいう経緯があったのかは知らねぇし、興味はねーけど」

「ちがわい。離せよ、こら」

「・・違うのか? 俺はてっきり。まぁ、寒い時には、人肌で温まるのが一番だしさ。おまえ最近、趣味変わったわけ? なんかそのカッコ、妙にやらかそーで、抱き心地よさげなんだけど」

「んな訳あるかーっ!」

抱き取られそうになって、慌てて変化の術で、相手が萎えそうな姿・・ラースでもグラトニーでも、適当に変わろうとして・・間に合わなかった。

「おっ、やっぱりな。ラスト居ない分、おまえがお色気担当な訳? でも、俺はロリコン趣味ねーからさ、もっとボンキュッボーンと、だなぁ・・こっちはどーなってるんだ?」

押さえつけられ、全身をあちこちまさぐられる。押しのけようと暴れたが、既に全身に“硬化”を施しているのか、脇腹やみぞおちをまともに殴りつけても一向に堪えた様子はなく、逆にこちらの指の関節が潰れただけだった。

「いっ・・痛ぅ・・おいこら、やめろよ、何考えてんだ、ばかっ!」

「さっき、あのナマイキな金髪のチビ掘らされて、ちょっとばかり口直しが欲しかったとこなんだよな」

グリードは悪びれもせずに、服の中に指を滑り込ませてくる。その不自然に冷たく硬い指の感触に、ぞわっと鳥肌が立った。
考えようによったら、あのとき・・グリードじゃなく、糸目のだったかもしれないってことを検証する、いい機会なのかもしれないが・・こんな形で調べたかった訳じゃない。大体・・意識が中の連中に乗っ取られてしまったら、検証もへったくれもあったものじゃないし。

「暴れるなよ。ま、中が裂けてもいいんなら、構わないけどな」

「いいわきゃねーだろ! いくら簡単に治るったって、痛いもんは痛いんだからっ! やめろバカ、ヘンタイっ! どこに手ぇ入れてんだよ、ボケッ!」

「 手ぇ、駄目? いきなりこっちが欲しい訳? まるで色欲だね。おまえが兼任してるってか?」

「んなわけあるか! やめっ、いきなりなんて・・無理ッ!」

グリードが下履きをずらして、屹立したものを引っ張り出す。眼を逸らしたつもりだが、なぜか視線が吸い付けられていた。それを欲して焦がれる感覚・・ばか、違うぞおまえら、あれは糸目のじゃなく、グリードなんだからな・・そう言い聞かせはしてみたが、体内でさざめく声は静まるどころか徐々に高まっていった。



いつの間にか、意識が堕ちていたらしい。眠っていたのとは感触が違うが、目覚める寸前の夢うつつのような状態で、手をひょいと取られたのを感じていた。指の付け根・・さっきグリードを殴って潰れた関節の辺りに、生温かく軟らかい感触のもの・・多分、唇か舌・・が触れる。
糸目の、と呼びかけようとして、まだ舌が回らない。かろうじて、うーっと低いうめき声が上がっただけだ。それでも、覚醒しかかっていることは察したのか、身体を引くのが感じられた。

「どこ・・い・・くんだ?」

グリードであっても、糸目のであっても、勝手に出歩くことは許されていない。眠っていたせいか、潰されでもしていたのか、目がなかなか開かない・・適当にアタリをつけて指先を伸ばし、触れたものに巻きつける。

「うワ、化けモン・・」

そんな言い草をするのは、糸目のだろう。やっぱり・・なんかの拍子にグリードと入れ替わるみたいだ。男の身体に絡めた触手を引き寄せる。

「どこへ行くんだ? 勝手に出歩くのは、許さないよ」

ようやくうっすらとまぶたが開き、ぼんやりと黒髪の輪郭が見える。やはり部屋を出るつもりだったのか、ブラウスを羽織り、ズボンも履いている。その表情はのほほんとしているようで、かすかな怯えも垣間見えるようで。そんな表情、絶対グリードじゃない。

「・・糸目の、だろ?」

親父殿にバラしちゃうぞと脅迫するのも面白そうだし、黙っていてやるからと恩を売って、言うことを聞かせるというのも楽しそうだ。いや、それよりもどうやって、身体のイニシアティブを取り戻したのかが気になる。
逃げられないように両腕を背に回す・・人造人間同士なんだから、もう重たいだなんて文句は言わせないよ。さぁ・・どうしてくれよう?
思わず気持ちが高ぶって、唇を舐めていた。別に・・キスをねだったつもりでそうしたのではないのだが、そう解釈されたのか、糸目のがフッと苦笑いして、唇を重ねてきた。最初は軽く、掠めるように、やがて柔らかく触れてきて、いつの間にか、とろけるように舌が絡み合っている。

「んっ・・ぅふっ・・」

気持ちよくイかせてくれたら、今回だけは目をつぶっててやろうかな・・ついつい、そんなことを考えていたら、糸目のの手が・・グリードのとは違って、程よい弾力とぬくもりを感じる指の腹が・・身体を滑り降りていった。

「ひゃっ・・いっ・・やっ・・!」

気を緩めていたせいか、あっという間に膝を割られてしまい、指がぬるっと入り込んできた。内部が傷付いているのか激痛が走る。相手もそれに気付いたのか、奥ではなく浅い部分にさわさわと触れる。そのじらすような愛撫に、思わず腰が浮いて、声が出てしまった。
そんなことをされたら・・突き飛ばそうとしたつもりで、なぜか手が勝手にしがみついてしまっている。違う、そんなつもりじゃ・・また・・意識が・・あ・・畜生・・っ!
前髪を梳くようにかき上げられたのを感じたが、それに応えて喉を鳴らして笑ったのは、もう、俺自身ではなかった。




朝になって目を覚ました時には・・隣で唸っている男は、糸目のではなくグリードだった。結局、糸目のとちゃんと話ができなかったし、イイ思いをしたわけでもないし、どうやって入れ替わるのかも突き止められなかった・・と思うと、妙に腹がたった。

「腰だるい・・人造人間に、老化なんかねー筈なんだけど・・衰えたんかなぁ。いや、この身体ってば、まだ若いよな。こいつがヘタレなのか?」

「知るかよ、狭い・・のけ、バカ」

「のけって・・冷たいなぁ。つれないよ、エンヴィーちゃん」

「てめぇ・・死ぬまで殺すぞ」

八つ当たり半分、思いっきりその腰を蹴り飛ばし、ベッドから突き落とす。ひどいなぁ、と甘ったれて鼻を鳴らすのに神経を逆なでされて、さらに枕を投げ付ける。枕は、見事に顔面にヒットした。

「えっちのときには、あーんなに可愛いのに、おまえってばさぁ」

「それ、俺の意識じゃねーもん」

「容れモンはおまえだろーが」

「中身が違うの。それを言ったら、おまえだってそーだろ?」

「はっ・・違ぇねぇや。つまり、似たモン同士ってことか。仲好くしようぜ?」

「ふざけんな!」

背筋がザワッとしたので、更に手を伸ばして、サイドテーブルに載せていた青銅製の燭台を掴んで、蝋燭の火が灯っているのもお構いなしに投げ付ける。
グリードなんかとそんな・・冗談じゃない、と嫌悪する一方で、グリードの中身でもいいじゃないかと舌舐めずりしている自分がどこかにいて・・そして、そんな自分に嫌悪を感じる。

「火の付いたモンはやめろ、危ないなぁ、もう・・ヒス起こすなよな」

グリードが糸目のの身体で、火の粉を払いながらぶつくさ言っている。それを見下ろしながら・・やっぱりあれは糸目のだったから・・どうやったら引っ張り出せるんだろうと、ぼんやり考えていた。




【後書き】・・つーわけで、アホ設定のまま、シリアスのよーな顔をして続いてます。ストーリー的には「It believes」の続き。
エンヴィーの身体が前とは違って妙にやらかそーで・・というのは、乙女海老だから・・です。乙女海老のフェロモンに、どーやら、ラースだけでなくグリードも参ってしまったようです(えーっ!?)。

ちなみに当シリーズ・・基本的にはギャグというかジョーク企画なんで、あまり真面目な話(続き)を期待されても困ります(笑い)。
初出:2005年12月23日

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