どーして、こうなっちゃうかなぁ?
エドは毎度のことながら、リンの腕の中で目を覚ますたびに、そう呟いて首をひねってしまう。
その疑問をぶつけるたびに、リンは「ダーカラ、君はマスタング大佐と別れて、オレに乗り換えた方が幸せなんだってバ」と、ニヤッと笑うのだが、だからといって、エドとしては「はいそーですね、じゃ」・・という訳にはいかない。
いや、昨日は仕方なかったんだってば。大佐と久々のデート・・のはずが、仕事で流れちゃって、押しかけてみたはいいけど、本当に急がしそうな中尉の様子を見てると、とても大佐んとこ行けそうな雰囲気じゃなかったんだしさぁ・・だから、仕方ないじゃん?
「オハヨー・・」
まだ半分眠っているリンが抱きついてきて、足で胴を挟んでくる。硬くなっているモノが腹に押し付けられて、エドは赤面する。
「・・こらっ、ヘンなとこ、すりつけてくんなっ!」
「ンー・・だって、キモチイイんだモン・・ナァ、せっかく勃ってるんだし、ヤろーか」
「朝っぱらから?」
「朝だから、ダヨ。どーせ君のんも勃ってるでショ?」
そんな言い草ってない・・とムカつくが、青少年の生理現象としてはむしろ自然に、そこが反応していることは否めない。
「大佐はそんなことしねーのに・・」
上機嫌で甘えかかっていたリンだったが“大佐”と聞いた途端に、露骨に眉をしかめる。
「アノサァ・・朝立ちもしねーオッサンと一緒にしないでクレル?」
「そーじゃなくて・・フツーはこーゆーモン、夜にするもんだろ? なのに朝っぱらから・・夜でもおまえ、部屋の明かり煌々とつけたまんまで!」
「ダッテ暗くしたら、君のカワイイ顔見れないデショ」
「恥ずかしいだろーが! 大佐はちゃんと気を使って、部屋を暗くしてくれるっつーのに」
「とかゆーて、朝でも昼でもオカマイナシにおねだりしてくんのは、ドッチかつーと、君の方ダロ? 大体、都合が悪くなると、いちいち大佐、大佐って持ち出してくるのが、気に食わネー・・」
「ともかく今は嫌なんだよっ! のけってば・・!」
「・・ヤダネ」
抵抗するエドを押さえ付けようと、リンが馬乗りになる。
そのとき、ランファンがすっと部屋に入ってくるのが視界の端に見えた・・またコッソリ枕元まで来てから、声をかけるつもりだったのだろう。
『ランファン? どうした?』
先に声をかけられて、ランファンが軽く目を見開いた。
『ふふ、今日は先に気付いたぞ。いつも不意打ち食らうからな』
『お食事のしたくができたのですが・・後にされます?』
『・・そーいえば、腹へったな』
エドは、自分の腹の上で、しかも通じない言葉でリンとランファンが会話をしていることに気付いてムッとした。
「なに? なんの話してるんだ? なぁなぁ・・」
「アン? ああ、メシのしたくできたんダト。ジャ、メシ食おうカ・・」
「・・スるって言ってたのは、どーしたんだよ」
「ヤメタ。マ、君もイヤがってたシ」
あのまま抱かれてしまうのは確かに不本意だったが、かといって、ランファンに一言二言何か言われたからって、あっさり中断されてしまうのも、あんまり嬉しくない。抵抗しながらも、リンの身体の重みや温もりを感じて、半ばその気になりかかっていたのだから、なおさらだ。
リンが起き上がろうとするのを、エドは逆に手足を絡めて邪魔しようとするが、髪を撫でられて「ハイハイ、イーコだから離してネ」なんて言われてしまう。
エドがベッドでむくれているスキに、ランファンがおろしたての服を取り出して、リンに着せつけ、ぐずぐずに寝乱れた髪もきれいに束ね直した。そのランファンの甲斐甲斐しさも、丸で見せつけられているような気がして、エドの神経を逆撫でする。
「朝メシ、食ってかネーノ?」
「いらねー」
「ソウ?」
脱ぎ散らかした服を掻き集めて着込むや、ドアを叩き付けるようにエドが出ていくのを、リンは唖然と見送る。
なんだよ、抱かれるの、嫌がってたんじゃねーの? やめてメシ喰うって言った途端に不機嫌になるなんて、ホントはしたかったのかよ? どっちだよ、まったく一体。
『・・なぁ。俺、なんか、あいつを怒らせるようなコトしたのかなぁ?』
『さぁ? 単に、朝ご飯食べたくなかったんでしょ?』
ランファンは我関せずという顔で、寝乱れたシーツを手早く直して、窓を開けて空気を入れ替えた。
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