「なぁ、アンタ、借金でもあんノ?」
「はぁ? ばかを言うな。この私に借金などあるわけがないだろう」
「でもサ、アンタさっきから、もう3回も居留守使ってンじゃン」
「それは・・おまえが一緒にいるからだろう」
「うそダ。アンタ、俺が居たって平気でオンナ、部屋に入れるジャン。その間、窓から外に出てロって」
「いや、今夜は寒いから」
「こないだハ、外ニ出されたヨ? しかもノンキにおっぱじめやガッテ」
「青少年に、夜のおかずを提供してやったんだ」
「寒くテ縮こまっテテ、ソレどころジャなかったヨ」
「ほう? それは悪かったな」
「ンデ? 今夜はなんデ逃げて回ってルノ?」
「おまえ、結構しつこいタイプだな・・実は、明日は聖人祭でな」
「?」
「いや、つまり愛する女性に薔薇の花を贈るイベントの日なのだよ。それで、アメストリス中の女性が、私から薔薇の花束を貰おうと・・」
「ハァ・・それで逃げ回ってルわけネ」
「すべての女性に花束を贈っては、さすがの私も破産してしまうからな。かといって、一部の女性だけえこひいきするのも不公平だし、争いの種になるだろう?」
「あの側近のオネーチャンにハ?」
「以前、東部にいる頃に義理薔薇を贈ったら、彼女の祖父が勘違いして舞い上がってしまってな。危うく結婚させられるところだった。それ以来は、危険だから贈ってない」
「フーン。エドにハ?」
「鋼の? ああ、そうか。考えたことなかったな」
「アンタ、マメそーに見えて案外、そーいうトコ抜けてンだナ。じゃ俺、明日の朝、花屋にでモ行こット」
「そんな金あるのか?」
「チョーダイ」
「なんで、おまえが鋼のにプレゼントするための金を、私が出さないといけないんだ」
「だって多分、そーいうお金は、ランファン出してくんなイモン」
「だったら諦めろ」
「ヤダ。じゃあサ、今晩はヤらせてやるかラ、等価交換でクレヨ」
「あのなぁ・・そんな娼婦みたいなこと言うんじゃない・・しかたないヤツだな。おい、いくら金に困っても、よそでは絶対、そーいうこと言ったらダメだぞ。金が欲しけりゃ、私がくれてやるから」
「アレ、妬いてんノ?」
「妬くか、ぼけ」
「未来の皇帝に向かって、ぼけとハなんだヨ、ぼけとは」
「おまえが未来の皇帝なら、私は未来の大総統だよ・・ったく。いくら欲しいんだ?」
「ありったケ。100本ぐらいのデッカイ花束がイイ」
「鋼のに花束なんて贈っても、喜ばんぞ」
「ソッカ? アイツ、結構そーいうノ好きだゾ?」
「私には、女扱いするなと、モーレツな剣幕で叱られるんだがな」
「へぇ? リボンして、スカートとか履いてくれルヨ?」
「なにっ! 私にはそんな姿見せてくれたことないぞ。どういうことだ!?」
「つまリ、俺の方が愛されテルってコト?」
「そんなわけがあるわけないだろう。まったく口の減らないやつだな。どうせ、そーやって鋼のをうまく言いくるめたんだろう」
「1つしかナイ口が減ったラ、無くなっちゃッテ、ご飯が食べられナイヨ」
「だから、その屁理屈を言う口をだなぁ・・塞いでやろうか」
「お手柔らかニネ」
「ったく・・ン・・ッ」
「ねぇねぇ、兄さん・・花屋さんに注文してきた?」
「へっ?」
「へっ・・って、ま、まさか忘れてたんじゃないだろうね!?」
「忘れてって・・えっ、なんかあったっけ」
「うそぉっ! 薔薇だよ薔薇! ほら、聖人祭の!」
「えっ・・あっ・・げげっ! しまった!」
「もう、兄さんのバカバカ! やっぱり僕が注文しておけば良かった! 毎年、ウィンリィと師匠には贈ってるじゃないか! 今年は、パニーニャにも贈らなくちゃねって言ってたのに・・あと、お世話になってるホークアイ中尉と、ガーフィールさんにも!」
「ガ・・ガーフィールさんはいらねぇだろ。オッサンじゃねーか」
「でも、贈ったら喜ぶと思うよ」
「そーいう問題かよ? き・・今日注文して・・今日中は無理・・だよな」
「1週間はかかるよね・・もう、兄さんのばか! 忘れんぼ! おたんこなす! いんきんたむし! 僕まで薄情者扱いされるじゃないか!」
「をい! いんきんたむしってなんだよ、いんきんたむしって!」
「兄さん、知らないの? 陰金田虫」
「知ってるけど・・違わい! どさくさに紛れてむちゃくちゃゆーな! まぁ、薔薇は・・電話して遅れるって言えばいっか?」
「兄さんが忘れていたせいですって、はっきり言っておいてよね。僕は1週間前に、ちゃんと兄さんに、注文しなきゃダメだよって言ってたんだから」
「自分だけいい子になろうとすんなよ」
「だって実際、今回悪いのは兄さんひとりだもん」
「ひっでぇ・・兄弟じゃないか。連帯責任じゃねぇの?」
「いくら兄弟といえども、そこまで責任とれないよ・・もういい。来年から、僕の分は僕ひとりで贈ることにするから」
「あーあーそーしてくれ、そーしてくれ。大体、あんな行事、花屋の陰謀だぜ」
「結ばれない恋人を、ひそかに祝福した心優しい聖人を称えたお祭りじゃないか」
「それにかこつけた花屋の商業戦略だ」
「兄さんって、本当にロマンがないよねぇ・・じゃあ、ほら、行くよ。身支度して」
「行くってどこに?」
「どこにって・・お花屋さんに決まってるだろう!? もう! 遅れてもいいから注文してくるの! そんで、電話もしなくちゃいけないでしょ? まったく、これだから兄さんは・・」
「あれ・・リンと大佐・・が花屋に?」
「あ、ホントだね。ふたりも聖人祭の薔薇を買うのかなぁ? 大佐ーっ、リーンッ!」
「ばっ、ばかっ! アル、声なんかかけるなよっ!」
「えっ? なんで? もう振り向いたよ・・大佐とリンも、お花買いにきたんですか?」
「は・・鋼のにアルフォンス君・・か、や、やぁ。き、奇遇だなぁ・・こんなところで遭うとはな。ははは」
「ホークアイ中尉に贈る薔薇ですかぁ?」
「あ・・いやその・・まぁ、そうだ。で、こいつが部下のオンナの子に、だな。なぁ? リン?」
「エッ? イヤ、俺ハ・・そ、そうだナ。ウン。アルにもアゲヨーカ?」
「本当!? あ、嬉しいっ! リンやっぱり、僕のこと好きなんだ! うん。その方がいいよ。兄さんみたいに、薄情で短気でがさつでおたんこなすでいんきんたむしな人とは別れた方が、絶対幸せになれるよ。あ、でもこの場合、僕からリンに贈った方がいいのかな? 兄さん、リンに贈る分は僕が出すからね。兄さんはとっとと、注文してきてよ。誰に贈るか、ちゃんと分かってる? ウィンリィと師匠とパニーニャとガーフィールさんね。リゼンブールに3つ、ダブリスに1つ。住所、覚えてるよね? 中尉の分は直接持って行って渡すから、配送手続きはしなくていい・・というより、しちゃだめだからね。分かってる? 兄さん。それだから、いんきんたむしなんだって言うんだよ」
「はっ・・鋼の・・まさか、おまえ・・い・・いんきんた・・」
「イ・・インキンタ・・ッテ、なニ?」
「んなわきゃねーだろ! アルッ、おまえのせいで、ヘンな誤解されちまうじゃなねーか! リンもそんな単語、覚えなくていーからなっ!」
「だって、兄さん、短パンで本読んでるときとか、よくタマタマ引っ張って、干してるじゃないか」
「そっ・・そんなことしてねぇっ! 嘘つくなっ!」
「してるよ。だって僕、何回か見たもん」
「鋼の・・おまえ・・妙なクセがあるんだな」
「ア、それだったラ、見たことあル」
「ね? あるでしょ? ほうら、兄さん! 僕、嘘つきじゃないよ」
「だからって・・いんきんたむし呼ばわりはないだろ・・なぁ、アル・・それ、絶対ウィンリィの前では言うなよ。言ったら・・村中に噂が広がって、俺、もう・・リゼンブールに帰れねぇ」
「マァ、確かニ、そこ触るの気持ちイーもんナ。ソノ気持ちハ分かるゾ。エド・・でも、手はちゃんト洗えヨ」
「だーかーらーっ! そんなことに妙な理解を示してくれなくていいからっ! 肩なんか叩いてくれても、ちっとも嬉しくねぇっ!」
「兄さん、大声出したら、お店の人に迷惑だよ・・ほらほら、注文してきて。僕からリンに贈る薔薇は・・白と紅と、どっちがいい? 二種類混ぜて花束作ってあげようか。ねぇ、どのぐらいの割合で混ぜる? ね、大佐だったらどういう花束にする?」
「そんなン・・半々でイーンじゃネーノ?」
「私だったら、赤い薔薇だけでいい。いや、1輪白い薔薇を混ぜようか」
「赤い薔薇がマゾっけで、白い薔薇がサドっけなんだって! 心理テストの本に載ってた」
「ウヒャヒャヒャ・・アンタ、マゾなんダ! 覚えておくヨ・・クックックッ」
「ア・・アルフォンス君・・オトナをからかうもんじゃない! おまえも笑いすぎだっ! このバカ皇子がっ」
「おーいアル・・注文してきたぜ。それ以外にも花束買うんだろ? あれ、リン・・なに笑い転げてるんだ? 大佐、顔真っ赤だけど・・どうしたんだよ? アル?」
「エド、おまえサ・・赤い薔薇と白い薔薇で花束にスルんだったラ、どーイウ割合にスル?」
「えっ? 赤い薔薇と白い薔薇? んなもん、白い薔薇だけでいいんじゃねぇの?いや、1輪赤い薔薇でも混ぜるか」
「は・・鋼のっ・・!」
「ハハァン、なるほド。アンタら、そーいう関係なんダ・・割れ鍋に綴じ蓋ってヤツ?」
「に、兄さん・・いんきんたむしの上に、サドなんだ」
「えっ? 何? なんだよ、なんで俺がサドなんだよ・・おい、どーいうことだよ? アルッ! 説明しろぉおおおお!」
「びっくりしたネ」
「まさか、鋼のと逢うとは思わなかった・・手・・つないでなくて良かったな」
「ホントだ。見られてたラ、ブっ殺されるナ」
「結局、どうするんだ? この花束」
「シャーネェから、ランファンにやるヨ。エドにやる分は・・別の花屋で買おうゼ・・んで、コレはアンタの分」
「・・私に? 私の分は、部下の花束からのおこぼれってわけか」
「イラネェ? デモ、花束丸ごとアンタにやったッテ、処置ニ困るダロ? それに1輪なら、コーやって胸ポケットに刺しておけるシ」
「おいおい・・こらこら・・まぁ、いいか。赤い薔薇か?」
「アンタ、マゾなんダロ?」
「ちがわい・・じゃあ、おまえにも分けてやる。赤がいいか? 白がいいか?」
「俺の服、胸ポケットないヨ」
「髪に刺すか?」
「イラネー!」
「黒髪には、白いのが似合いそうだな」
「ジャ、今度、そーいうプレイしよーカ・・縛ルのがイイ? なんカ道具、用意スル?」
「ばかっ! そんな意味じゃない!」
「ソーダね。俺もアンタのなんカ、気色悪くテ見たくネーシ。アンタもエドにされたいンダロ?」
「そうだな、せっかくなら愛するエドの方が・・って何を言わせるっ!」
「ゲェ! 寄るな! ヘンタイが伝染ルッ!」
「ヘンタイいうなっ!」
「ヘンタイだ、ヘンタイ・・俺やっぱ、ヘンタイ佐より、エドがイイヤ」
「だーかーらっ・・違うって・・あれ、中尉?」
「大佐ッ! 探しましたよ! まったく・・あれだけ仕事溜めて、なにが休暇ですか! 却下ですからね。さぁ、戻ってお仕事しましょうね」
「いだだだっ・・・痛い痛いっ! 分かった、戻る。司令部に戻るから、腕をひねり上げるのはよしてくれ!」
「まったく、こんな青少年連れ回して何してるかと思えば・・!」
「連れ回してなんて、人聞きの悪い言い方するな! ただ、花屋に行ってただけだ! なぁ、リン?」
「そうなの? 大佐にヘンなコトされてない? 大佐ってヘンな趣味があるから、気をつけるのよ?」
「・・やっぱりヘンな趣味ガあるンダ・・ア、コレ、オネーさンにって」
「あら、薔薇? ありがとうね。嬉しいわ。そっちの花束は、ランファンちゃんに?」
「ソーソー」
「まぁ、気が利くのねぇ・・大佐なんて、もう何年も薔薇のバの字も・・ほら、帰りますよ、大佐」
「バイバイ、ヘンタイ佐・・あ、チョット待っテ。オカネ」
「手を出すなっ、手を・・まったく、忘れてなかったのか。ちゃっかりしてるなぁ。ほれ、持ってけ泥棒」
「ジャーネェ」
「エドッ!」
「うわっ、リン・・ここ、何階だと思ってるんだ!」
「4かイ」
「窓から入ってくんなっ! 驚くじゃねーかっ・・なんだよ、薔薇?」
「愛すル人ニ、薔薇贈る日なんダロ? そーいウ日なラ是非、エドに贈らなくちゃイケナイと思っテサ」
「俺はオンナじゃねーっつの」
「ヒドイナァ・・エドは俺のコト、嫌イなんダ?」
「嫌いじゃねーよ・・黄色い薔薇なんだな」
「赤とか白だったラ、さっきノ思い出しテ、ヘンなコト考えるダロ? それニ・・この色、エドの髪ヤ目の色と同じだシ、俺の国でハ縁起のイイ色だシ。でもサ、どの花屋見てモ赤と白の薔薇ばかりデ、町中探したんダゼ?」
「大佐と一緒に?」
「1人デ。おかげで迷子になりソーになったヨ」
「本当かよ?」
「な・・なんだヨ・・オマエ、ナンカ誤解してネェ?」
「だっておまえ最近、大佐とばっかり一緒にいる気がする。さっきだって、おまえらふたりでいたじゃん・・リン、俺に飽きたの?」
「んなわキャねーダロ? 俺はエド一筋だゼ?」
「・・本当かなぁ。それにさぁ・・リン、アルからも花束貰ってただろ。受け取るなよ、あんなもん・・アルが本気にしてるだろーが」
「だってサ、突き返したら、カワイソウだロ? そーいうエドこそ・・あのスケベ大佐と逢ったりしてるンダロ?」
「してねぇよ! もう大佐とは・・そーいう関係じゃないんだから!」
『・・はぁ? そうなのかよ? あちらさんは全然、そー思ってナイみたいだけど』
「えっ? なに? 今の・・シン国語?」
「・・イヤイヤ、こっちのハナシ。そっかぁ・・エドは俺だけ・・ネ。嬉しいヨ」
「だーかーらーぁ! 何回も言ってるじゃねーか・・どうして信じてくんねーんだよ。好きだって、好きなんだってば、俺・・おまえが・・俺、もう、おまえだけなんだから!」
「でモ、ウィンリィちゃんとかにモ、薔薇贈るんダロ?」
「それは・・毎年のことだからな。でも、今年はすっかり忘れてた。その・・おまえに贈ろうって思って、それしか頭に無くって・・あの・・多分、今頃、おまえの宿に届いてると思う」
「エッ、マジで? じゃ、せっかくだかラ、エドのくれた薔薇、見に帰るワ」
「おい! せっかく来たのに、帰るやつがあるかよ! その・・帰んな。帰っちゃ・・やだ」
「ン? 俺がいないト寂しいトカ? かーわイイこと言ってくれルネェ。チューしてあげヨか」
「・・ばか」
「じゃあサ・・ヤろっか?」
「はぁ? ヤろっかって・・まさかっ・・まっぴるまっから、おまえっ! このドスケベ皇子っ!」
そして・・エドの強烈な右ストレートパンチが、リンの顔面に決まった。
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