| ■冬期講習 高校生には、正月もクリスマスも関係ない・・いや、そう言い切るには多少の語弊がある。真地面な受験生・・あるいは別の理由で勉学に勤しむ学生には、関係ない・・というところだろうか。 『学校に出てきて、講習を受ける』 その行為を、単なる義務として履行する者もいれば、単に学友に逢う口実にしている者もいるだろう。あるいはまた、恋する貴重な時間を確保するための手段にしている場合すらある。 それは、優等生として知られている彼も、例外ではなかった。 お利口さんの彼の場合、補習を受けなければいけない、ヤバい教科なんて、ひとつもない。かといって、特に親しい友人がいてつるむ・・という訳でもない(あ、でも、そういえば俺が冬期講習を受けると言ったら、ヒューズのやつも「じゃぁ、俺も」とか言ってたな)。 ただ・・いつも足繁く通って、邪魔をしているんだか、手伝っているんだか分からない状態でたむろしている社会科準備室にいる方が、厳粛で家庭に一切興味を持たない父と、父の目を盗んで放縦に遊び回る母の居る、息苦しくぎくしゃくした自宅にいるより、よっぽどマシだということだ。 教師の中に、理想の父親像を見た・・というのとは少し違う。 だが、教師の一緒に居る時間が、少年の安らぎになっていたことは確かだった。 ※ ※ ※
「先生・・お昼、一緒に食べませんか?」 押し掛けると、教師はいつも通り準備室に居た。ただ、いつもと違うのは、教師が毎日持ってきている愛妻弁当が、ここ数日は無いということだ。教師の妻子は年末年始、実家に帰っている・・ということを、少年は知っていた。 あと5分、ここに到着するのが遅れたら、教師が内線で、仕出し弁当の注文を出していただろうことも。 「構わねぇけど・・なんだよ、ずいぶんでけぇ弁当箱だな」 「何言ってるんですか。お節料理、ですよ。母に言って、うちのお節、分けてきてもらったんです」 少年がにっこり笑って言う。 「いいのかよ、おまえんちのお節だろ?」 「だって、先生、お節、召し上がってないでしょう? だから、ご一緒にと思って・・それに、全部母が作った訳じゃないですよ。買ったのもあるし・・僕が作ったのもあるし。だから、先生に食べてもらいたいなって」 「おまえが? じゃあ、まあ、味見させてもらうけどよ。なんか、妙な気分だなぁ」 教師は頭をボリボリと掻く。少年はその姿を飽きることなく眺めていた。 こういう時間が得られるんなら、退屈な講習を受けるのも無駄じゃないよな、などと思いながら・・。 (初出:06年01月02日)
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