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XXX R1



最初は、そんなつもりは全然無かった。
むしろ、リンがロイの自宅に押し掛けて「エドから手を引いてくれ」と迫り、当然そんなつもりは毛頭無いロイが「そっちこそシャシャリ出てくるな」と怒鳴り返して、掴み合い寸前の激しい口論になっていた筈なのだ。
そして、どちらがエドをより幸せにしてやれるかを主張してあっていた時に、双方が「ベッドテクニックには自信がある」と言い出したのだ。

「なにしろ、じっくり何年もかけてエドを開発したのは、私だからな。あの体は、私の為に華開いたのだよ。君のようなぶしつけな野良犬に踏みにじらせるために育てたものではないぞ」

「ハン、単に初めてだッてんデ、比較対象がなかったダケだろ? エドってばサ、セックスがこんなにキモチイイなんて知らなかったッて、感激してたんダゼ?」

「そんな筈があるか」

「マジでマジで。もうヨすぎて、一昼夜ヤリまくったことだってアルんダゼ、オレら。中年のアンタにゃ出来ない芸当ダローけどネ」

「なんだと!」

アメストリス中の女を泣かせた名うてのプレイボーイと、後宮三千人を相手にする房中術の使い手・・双方のプライドが激しく正面衝突した形だ。

「口先だけでなら何とでも言えるぞ、小僧め」

「そいつハお互い様。そっくりそのママ、その言葉返してやるヨ」

売り言葉に買い言葉で応酬し合う内に、エスカレートして「じゃあ、試してみるか?」ということになっていた。そこで、どっちが先か、ジャンケンで決めようということになる。

「男らしく、一発勝負だ。負けても四の五の言うなよ」

「ソレはコッチの台詞ダ。吠え面カクなよ」

そしてふたりは、拳を構えてにらみ合い、ジャーンケーン、と声をかけたのであった。





「男らしく、四の五の言うナヨ?」

ニッと笑って、リンは開いた手をひらひらさせる。一方、顔面蒼白のロイの右手は固く握りしめられたまま、小刻みに震えていた。

「い、いや、今のは後出しだった! やり直しだっ!」

「後出し? ナンのコトヤラ。一発勝負って言っタのハ、そっちダゼ?」

「卑怯ものっ! セコいぞっ!」

「セコいのは家柄の影響でねェ・・セコくてもナニしても、勝ちゃイーノヨ、勝ちゃ」

リンはそのまま硬直しているロイの頬を、平手で軽く叩いてやる。

「それニサ、アンタ、女役のケーケンあんだロ? オレ、一回も無いしサ。そーいうハンデ考えタラ、こーいう順番デないト公平じゃナイシ」

「ハンデだとぉ!?」

「慣れてナイ上ニ、下手クソに直腸突っ込まれテ、ケーレン起してショック状態トカになったラ、どーしてくれンノ?」

そして、ロイのベッドヘッドだのサイドボードだのを勝手に掻きまわして、何かを捜し回る。

「オッ、やっぱり有ったナ、ローション・・コレって媚薬入り? イヤラシーネェ、こーんなクスリ使わないト、エドをその気にさせてヤルこともデキネーの?」

「そ、そんなことは無いぞ! それは鋼のを傷つけないようにだなぁ・・!」

「下手クソだから傷つくンダロ? アー、ジャンケン勝ってホントー良かったァ。危うくお尻ガ裂けるとこダッタ・・ア、スキンもあるナ、ヨシヨシ。アンタのケツなんかに生で突っ込んデ、オレの大事なモンに何かあったラ、シン国存亡の危機ダもんナァ」

ロイが「調子に乗るな」と怒鳴ろうとした瞬間、その言葉を遮るように、リンがくるりと振り向いた。

「往生際ガ悪いゼ。シン国の次期皇帝のテクニックを、体験させテやるッて言ってるんダゼ? ありがたく思って服、脱げヨ。それともコワイのカ?」

いつもニヤついているように見える糸目だが、その奥の本音は見えない。ロイはぞくりと背筋が冷たくなるのを感じた。

「 怖いなんてこと・・あるものか。ただ・・その、キスだけは勘弁してくれ」

「そいつはこっちも願い下げだネ」

そして・・パサリ、とシャツが床に落ちた。

* * *


抱かれているロイの手が、何度も宙を掻いた。何かにすがろうとして、果たせない・・そんな様子だった。そんなもんに視界をちょろちょろされたら、気が散ってシャーナイと煩わしく思ったリンは、その手首を掴むと自分の首に回させた。

「・・つかまってナ」

ロイは一瞬驚いたようだったが、抗うことなく腕をリンの首に、背に回してきた。どうやら、リンの身体にすがりつくことに抵抗を感じていたらしい。それはリンに気をつかっていたのか、自分のプライドが許さなかったのか。
初めは遠慮がちに、だが次第にその指先に力がこもっていく。これがエドなら容赦なく爪を立ててきて、リンの背中を血だらけにしてしまうところだ。だが、ロイは爪を立てようとしてハッと我に返ったらしく、リンの背中に回した両手を軽く握って指先を隠す。相手に痕をつけないように、気をつかうクセがついているのだろう。
まだそんなことを気にしている余裕があるのかと、リンはムッとしてロイの片膝を肩に担ぎ上げた。まだ足りないか? もう少し、痛めつけてやろうか。突き上げる角度を微妙に変えて奥まで入り込むと、ロイが低くうめき声を上げた。

「やっ・・痛いっ・・この下手糞っ・・!」

「痛いンじゃなくテ、素直ニ感じてるッて言ったラ?」

「ばっ・・誰がっ!」

だが、ロイの表情を歪めているのが、単なる苦痛でないことは、上気している頬と、うっすら赤みを帯びた目元を見れば明らかだ。声が漏れそうになるのを、奥歯を食いしばりながら必死で押し殺している。リンはそれに気付くと、片手をロイの口元に這わせ、指を口の中に押し込んでやった。

「う・・うぐっ・・」

「感じてルんダロ? 啼けヨ」

「だっ・・れがっ・・あっ・・うっ」

「ホーラ、色っぽく啼けるジャン」

嘲笑うように言い放ち、ロイの唾液で濡れた己の指をシーツで拭う。まだ、リンのどこかに「汚ない」という感覚が残っていたのかもしれない。

一方、ロイは一度、あえぎ声が洩れてしまうと、堰を切ったように嬌声が止まらなくなってしまっていた。そんな自分の身体の反応に、他人事のように驚き、そして己がコントロールできなくなってることへの恐怖を感じる。
はるか年下の少年に、大の大人であるはずの自分が翻弄されていることに腹が立ち、嫌悪すら感じているというのに、身体は歓喜してすがりついていく・・その分裂していく自我に耐えられない。

「やば・・い・・ちょっ・・休ませてくれ・・も・・ダメだ」

「アン? 何? ヨすぎて疲れちゃっタ?」

「ちが・・そうじゃないが・・その、タンマ、これ以上、無理だ」

「ジャァ、オレのテクニック、認めてクレル?」





ああ、そういえば、そういうで理由で抱き合ってたんだっけ・・もうそんなことすら、冷静に考えられなくなっている。





「あ・・あのローション・・そういえば、媚薬配合だから、その影響もあるだろーがな」

「このゴに及んデ、負け惜しみ言っちゃっテ・・マ、イイヤ。後ろ向きナ、望み通リ、スグに終わらせてヤルかラ」

「そんな格好でヤられるのはごめんだ」

朦朧としかかった意識下でも、さすがにドッグ・スタイルはプライドが許さないと抵抗してみたのだが「ゼータクゆーな、お互いカオみなくてスムんだから、こっちの方がイイダロ」と冷たく言われ、身体を裏返しにされてしまう。
ロイは顔を枕に埋めて声を隠そうとしたが、リンに髪を掴まれ、仰け反らされた。

「啼いとけッテ・・あんた、イイ声してるヨ」

リンが、クックッと喉の奥で笑いながら、突き上げ続ける。

「も少し、カワイク啼いてみてヨ。アンタの声でイけそウ」

「ばっ・・ばかにしてっ・・私を誰だと・・」

「ンーッ、屈辱にまみれタ声もステキダネェ」

無駄口を叩いてはいるが、リンも次第に高みに向かい始めているのは、早まっていく息遣いを聞けば分かった。
ロイの背中やシーツに、大粒の汗の雫が落ちてくる。ロイも全身がじっとり汗ばんでいた。ロイは自身の昂りも鎮めたくて、何度も手をそこへ導こうとしたが、リンはわざとそれの手を掴んで阻んだ。

「や・・だ、このまま、こんなんでイくなん・・てっ!」

やがて、リンの動きが止まった。激しく何度も痙攣したのが、内側で感じられた。それにつられて、結局触れられもしないまま、ただ蜜を溢れさせるだけで生殺し状態にされていたロイの猛りも解放される。

「・・トコロテン」

「妙な言葉知ってるんだな」

「エドに聞いタ」

「あーそうかい」

エドにそんな言葉を教えたっけか?と、ロイはぼんやり考えている。まぁ、年頃なんだから、そういう品のない言葉は自分以外からも、あちこちから聞いて覚えるのだろうが。






リンが荒い息を吐きながら、ぐったりとロイの背中に抱きついている。ロイの体内で、まだそれは硬度を保ち、脈動していた。

「・・どけ」

「チョ・・チョット、待っテ」

「待たんぞ」

ロイだってフラフラで倒れこみたいのだが、自分の放ったものがシーツを濡らしているために、このまま崩折れるわけにはいかないのだ。ロイは軽く締め付けてみた。

「イデデデッ! バカッ・・!」

リンが悲鳴を上げて腰を引く。放った直後で脱力していただけに、相当痛く感じたらしい。ロイが身をよじって見上げると、リンはへたりこんで、自分のものを両手で握っていた。

「イッテェ・・食いちぎられるかト思っタ・・」

半べそをかいているような表情で、そっとスキンを外し、恐る恐るといった手付きで陽根が傷付いていないのを確認する。それからおもむろにスキンの口を結んで、くずかごに放り捨てた。そいつはビタッ、という妙な音を立てて落ちる。

「・・疲れタ・・」

そう呟いたリンは、棒でも倒れるように、バッタリとシーツに倒れ込んだ。

「一昼夜ヤりまくったんじゃないのか?」

「エドとはいくらでもデキそーだけド、アンタ相手じゃ、倍、疲れルから無理・・ズータイでかいシ」

「ほっとけ」

体重や体格を女やエドと比べられては、ロイの立つ瀬がない。軍人としては小柄な方だとはいえ、一応、大の大人なのだから。
ロイは、なにげなくリンの背中を見下ろしていた。白い背中に細いウエスト、滑らかに盛り上がった臀部・・こんな身体に組み敷かれて、自分はいいようにされたのか。
思わず手が伸びかかるが、ロイは自分が何をしたいのか分からず、すぐに引っ込める。

「その・・次は、私の番なんだがな?」

「少し休ませろヨ・・大体、休みタイって泣き言いってタノ、そっちダゼ」

「それもそーだな」

ロイもリンの隣に、自分が汚したあたりを避けながら、ようやく寝転がった。恋敵の筈が全裸で並んで寝ているなんて、なんだか妙な気分だったが、ここは自分のベッドなのだから横になる権利がある・・と、意味不明の理由をこじつけて、無理矢理自分を納得させる。

「おい、枕よこせ」

1つだけの枕は、リンが顔を埋めていたのだ。だが、リンは何を思ったのか、代わりに体を反転させて横向きになると、放り投げるように「ホレ」と、片腕を差し出してきた。指が長く、手首の細い・・しかし筋肉がほどよくのっている腕だった。

「いや、腕枕じゃなくて・・手、痺れるぞ」

「ダッテ、アンタにやったラ、オレの枕なくなるジャン」

「そもそも私の枕なんだ、これは」

「オレのハ?」

「知るか」

グッと枕を引っ張ると、リンの頭がコトンと落ちた。リンが眉をしかめたが、ロイは構わずに枕を奪った。

「ヒデェ」

「おまえ相手に優しくしてどーする。鋼のには紳士的に接しているんだ」

「ハン、ドーダカ・・オイ、アンマリくっつくナヨ」

「こっちは汚れてるから、気持ち悪いんだ。邪魔ならおまえがベッドから下りろ」

「汚れて気持ちワリーって・・テメーのだろ。マッタク、横暴ダナァ」

「私の部屋だからな」

確かに、我ながらかなり無茶な言い分だとは思うが、ここが自分の部屋なのは事実なのだから仕方ない。枕を取られたリンがブツクサ言っているので、ロイの方で「ホレ」と右腕を出してやった。
リンは一瞬戸惑ったが、思い直した様子でロイの二の腕に首を乗せる。ただし、ロイに背中を向ける形で、だ。腕枕というよりは、多少按配の悪いタダの枕だと考えることにしたらしい。少しの間、頭を乗せる位置が定まらないのか、居心地悪そうにごそごそしていたが、やがておとなしくなり寝息が聞こえ始めた。
それを聞いているうちに、ロイもつられてつい、うとうとしてしまう。





机の上に書類の束が載っていた。これ全部片付けるまで、帰しませんからね。お食事もおやつも、仕事が終わるまでお預けです・・と、リザに冷たく宣言されて、泣きそうになりながらペンを走らせる。だが、焦れば焦るほど、右手が凍りついたように自由に動かない。
ようやく山が半分に減ってきたところで「これもお願いします」と、さらに倍量の書類が机の上に載せられた。

「大佐、これもたのんます」
「あ、まだありました」
「机に乗り切らないっすね、ここに置きますよ」

ドサドサドサ・・しまいには、ロイの膝の上に書類が積み上げられ、胸まで埋まってしまい・・息苦しくなって・・目が覚めた。

「・・おい、こら」

胸の上には・・寝返りを打ってこちらを向いたリンが、腕を載せていた。太腿にまでリンの足が乗っかっている。道理で、膝の上に書類を載せられた圧迫感があった訳だ。つまり、ロイは寝ぼけたリンに抱きつかれていたことになる。
リンは相手を誰と間違えているのか、猫のようにロイの肩口に頬をすり寄せていた。

空いている左手でリンの頬を叩く。寝起きが悪いのか、リンは目をこすりながら、なにやらぶつぶつと口の中で呟いている。これでは寝込みを襲われたら、あっけなく暗殺されちまうぞと、ロイが他人事ながら心配になったほどだ。

「おーい、起きろ」

「う・・ん・・アレ・・うわっ・・ゲッ! なんデッ・・あ、ソッカ」

ようやく目を覚ましたリンは、ひとりでなにやら大騒ぎしてから、しまいに赤面して「・・スマン」と消え入るような声で呟くと、飛び退くようにして体を引いた。
急に圧迫から開放されたロイの右腕に一気に血が通って、次の瞬間、猛烈な痺れが走る。

「ぐぅっ、ぐぁあああああ!」

「エッ、あ、ドウシタ? ダ、ダイジョブか!?」

とっさのことに状況が飲み込めないリンは、突然うずくまって悶絶し始めたロイを目の前に狼狽したが「腕が痺れたぁっ!」というロイの悲鳴を聞いて、吹き出した。

「ナァンダ・・ダラシネーナァ」

「きっ・・貴様のせいだぞっ!」

「エドに腕枕トカしてヤッタことねーノ?」

「鋼のなら痛くないんだっ!」

「ソッカ・・あいつチビだしバカだし、アタマ軽いモンナ。悪いネェ、カシコだから頭重くテ」

そして、心配をしているようなフリをして「ココカ? ココがシビれてんノカ?」などと言いながら、リンがロイの腕を突付く。

「うぎゃああああ! やめんかぁああああっ!」

リンは腹を抱えて笑い転げ、しまいに「ヒーヒー」と呼吸困難を起して、自分もうずくまってしまう。ロイの腕の痛みが収まった頃には、今度はリンが「腹筋が痛ェヨォ」と身を二つ折りにして、涙ぐんでいた。

「笑いスギた・・ノド乾いタ・・」

「そう言えば、カラカラだな」

「ナンカ飲みテェ」

「確か、冷蔵庫にオレンジジュースがあったな」

「フツーの冷たい水でイイナ・・氷入れテ」

「氷? ぜーたく言うな」

「取って来てクレンのナラ、何でモイーケド」

「ふざけんな、自分で取りに行け」

「ココ、アンタんち。オレ、客人」

「ばかもの、だぁれが客人だ・・」

「ンじゃァ、ジャンケンで決めヨーカ」

「よし、じゃんけーん・・」

「ポン・・ア、悪いネェ、アリガトウ」

またしてもリンはパーを、ロイがグーを出していた。ロイは納得いかない顔で己の拳を見つめていたが、やがて諦めて起き上がった。


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【後書き】何をトチ狂ったのか、リン×ロイという無人の荒野を逝くことになりました。この組み合わせでイチャイチャはできないと思うのですが、こーいう流れならエッチもアリかと・・多分、世界中の誰ひとりとして、こんなカプ、考えたこともないでしょうとも!
ノックス×ロイよりも激しい茨の道・・でも、今一番、萌えるカプだったりします。がんばってこの2人をツンデレにするぞー(オーッ!)

ちなみに後半は書きためていたエチーシーンのストックをそのまま放出・・尻切れとんぼ状態ですんで「つづく」とかゆーて、ちゃんと続いていません。
そのへん、気にしない方のみ、続きをどうぞ。
ブログサンプル掲載初出:2005年9月14日
当サイト掲載:同月23日
大幅加筆:同月30日

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