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XXX R2


「最近サァ、エドが冷たいんダヨネー」

リンがロイの腹の上でボヤいていた。

「アンタさ、エドにナンカ吹き込んダ?」

「まさか・・こっちも最近、鋼のには逢ってないんだ。仕事が忙しかったし、今日は早く終わったから、食事でもと思って電話したら、鋼のは出かけていていないと、弟クンが・・」

「ヘーェ? デモ、オレとは結構会ってるジャン」

「会ってるというより、押し掛けて来てる、だろうが。この欠食児童が」

「ダッテ、独身でヒトリサビシく飯食ってると、ムナシーだろ?」

「おまえじゃなく、鋼のと食事がしたいんだがな・・単に飯が食いたいんなら、ブロッシュあたりにタカッたらどうなんだ」

「ブロッシュさんネー・・イイ人なんだけド、イイ人過ぎて、あんまりショッチュータカるの、タメらっちゃうのヨネー。それにホラ、ビンボーだし」

「まぁな」

「それに、オプションねーシ」

「オプションって・・コレか? ひどい言われようだな」

まぁ、ブロッシュ相手に「ケツ貸して」とは言えないか、とロイは苦笑する。
自分だって「貸して」と言われてホイホイ脱いでいるつもりはないのだが、性欲解消のために女の子をいちいち口説く手間を考えると、楽でいいか・・という感覚に、いつの間にかなってしまっていた。

なにせ女の子相手だと、結婚してだの責任とれだのと、後が色々厄介なのだ。

・・鋼のも、最近つかまらないし、な。
(それにしても、毎回ジャンケンに勝てないのはどうしてだろう?)

大体、リンの方でも「ホントは、エドとえっちしたいんだけドナァ・・でもフーゾクにハ行かないッて約束してルシ」などと文句を言っているのだから、お互い様だ。

「そろそろ・・イク?」

「あ? そうだなぁ・・こんな時間か。明日早いし、ぼちぼち寝るか」

「アンタの顔見てたらナンカ、イケそーにネーナァ、ちょっとコレ、かぶってテ」

羽枕を顔にのせられる。
どーいう意味だとムッとしたが、視界を遮って身体の感触だけで抱かれるというのは、ちょっと新鮮かもしれんな、などと、ついつい思ってしまった。
「今度、目隠ししてシたい」などと口走ろうものなら、口の悪いリンに何こそ罵られるか分からないが。

「もーチョット痩せてくれナイと、雰囲気デネーナァ・・」

「さすがに、鋼のの代役は無理だと思うぞ」

「ソーダネェ・・シャーナイカ」

それまでゆるゆると繋がっていた身体が、急に貪るように高みを目指し始めた。
その突然の変化に苦しくなって、枕をはね除けようとした両手首を掴まれ、押し付けられる。相手が見えないことも相まって、まるでレイプされているようだ。





「やっ・・ちょっと待て、こんなっ・・」





そして・・イった瞬間、思わず別の名前を叫んでいたらしかった。

まったく自覚はなかったし、記憶にもなかったが、自分を見下ろしているリンの凍りついた表情を見る限り、その可能性は高かった。

「あ・・その・・済まん」

「アン? 何ガ?」

「何って・・その・・いや、何も無いなら、別にいいんだが」

リンは無言でずるっと抜け出し、ロイに背中を向けてスキンを脱いで片付けた。そのまま、顔を見せずに後ろ向きで横たわる。

「その・・水・・要るか?」

「要らネー・・ハラへった」

「うちには、食い物なんて何も無いぞ」

「デリピザは?」

「さすがにもう営業、終わってるだろう・・バーの類いなら開いてるが」

「メンドクセー・・帰ろカナ」

「いや、こんな時間だし、泊まっていけ」

なぜ引き止めようとしているのか、自分でもわからない。このまま帰したら、この関係が終わりになるかも・・という予感はあったが、良く考えれば、別に終わっても一向に構わないはずだ。なし崩しのように始まり、お互いに恋愛感情も無く・・というよりも恋敵のはずが、性欲解消という理由で重ねていっただけなのだから。

「いや、帰ル・・ハラへった」

「じゃあ、どうせ帰るなら、居酒屋に寄ればいい・・一緒に行こう」

「宿に帰っテ、ランファンに何か作ってモラウ」

「帰る途中で、行き倒れるんじゃないのか?」

「イヤ、ハラへってるっいってテモ、そこマデじゃネーし」

ここまでアレコレ言われれば、いくら鈍くても「単に一緒に居たくない」のだということは分かってしまう。

「だったらこれで、途中でなんか買って帰れ。いくら部下でも、寝てるのを叩き起こして飯を作らせたら可哀相だろ」

せめてもの気持ちで、サイドテーブルに放り出していた財布から、紙幣をつかみ出し、身支度をしていたリンのスボンの尻ポケットに突っ込んでいた。






ロイのアパートメントを出たリンは、階段を降りながら何気なく、押し付けられた紙幣の金額を確認して驚いた。

『・・おいおい。フルコースが食えるぞ』

何考えてるんだ、マ、くれるもんはありがたくもらうけどヨ・・と思う一方で、自分の身体がカネで買われたような気もして、余計に不快感が募る。
我ながらおとなげなかったかもしれないとは思ったが、あの時点でロイがいつも通り「何を拗ねてるんだ、エロガキが」などと喧嘩腰に言い放ってくれれば、こっちでも何か言い返してスッキリできたのかもしれないが、ああも下手に出られると、かえって神経を逆撫でされてしまった。

エドが、よく自分とロイを重ねたり比べたりして、それが気に入らなくてケンカをしたりするので、そのことを思い出して、不快になったのかもしれない。だが、エド相手の場合は明らかに“嫉妬”なのだが・・ロイに惚れている訳でもないので、今回のは断じて嫉妬などではない。だが、あの不快感を何と表現すべきかは、リン自身にも分からなかった。


・・せっかく一発抜いたのに、なーんか、かえってモヤモヤしちまったな。


このカネでオネーチャンでも買って、スッキリしてから帰ろうかな、とリンは思う。小腹がすいていたことは確かだが、実際のところロイ相手にごねていたほどではない。

小柄で金髪の娘でも指名しようかな、いや、こっちの女は飽きたから、東洋人がいないか聞いてみようかな。フーゾクには行かないとエドと約束しているのは本当だが・・今日は、緊急措置ということで。リンは自分にそう言い訳して、夜の街を歩いていった。






案の定・・リンはピタリと来なくなった。

実は、こういう失敗は女性相手にも何回かやったことがある。
所詮火遊びじゃないかとか、割り切った付き合いだからなどと言い訳しても・・いや、ある程度理性が働いている間柄の方が、機嫌を損ねた時に厄介なのかもしれない。惚れ込んでいる相手なら「ごめんよ」などと甘く囁いて髪のひとつも撫でれば、どんなにひどいことをしても、あっさり許してもらえるものだが。

そういえば、こっちからアイツに連絡する手段って、ないんだな。

今更のようにそんなことに気付いてびっくりする。まぁ、エドの周囲をうろちょろしていることに変わりはないのだから、その気になれば簡単に見つけられるだろうが・・見つけてどうしようというつもりなんだか。

「ため息なんかついて・・また新しい娘でも狙っているんですか?」

午後の書類を届けに来たリザに声をかけられて、ロイはドキッとする。
朝一番で取りかかるはずだった書類が、まだ手付かずのまま、デスクの上に載っていたのだ。つまり・・午前中まるまる仕事をサボっていたことになる。

「あ? いや、ちょっと寝不足で、な。外の空気を吸ってくる」

大体、向こうだって枕で顔を隠させたり、もっと痩せろなんて言ったりしてたのだから、こっちが名前を間違えたことだって、言わばお互い様じゃないか。小遣いまでやったのは、やりすぎだったかな、と妙な反省をしたりもする。

どこに行くという当てもなく廊下に出て、ふとブロッシュにバッタリと会った。

「おお、軍曹・・」

思わず声をかけていたが、自分が何を尋ねようとしているのか、分からなかった。

「最近、どうだ? 恋人でもできたか?」

とっさに適当なことを言う。これがカンの良い相手・・例えばヒューズやリザだったりすると、小1時間はツッコミが入るところだが、そこはさすが(?)ブロッシュだ。

「え? いや、その、恋人なんかじゃありませんよぉ、ランチを一緒に食べてるぐらいで」

などと、あっさり引っかかる。恋人と聞かれて、即座にリンの話題が出てくるところや、ほんのり赤面しているところを見ると、もしかしたら惚れているのかもしれない。
まぁ、軍人にそういう趣味のやつは少なくないし、自分もひとのことは言えないし、リン相手だからどうということも、全然思わないのだが。

「あのシン国人のガキか?」

「ええ、リン君って言うんですがね・・なんでもシン国の皇子だとかで」

わざわざブロッシュに解説してもらわなくても、それぐらい知っている・・どころか、つい最近まで寝ていた相手なのだが。ロイは苦笑が出かかるのをこらえて、ことさらに仏頂面を作った。

「ふーん? 食事だけか?」

「えっ・・どどど・・どういう意味ですかっ!」

「別に・・オプションとか」

「オプション・・? いえ、その・・そりゃ、たまには服とか買ってあげますけど」

「服、ね。だったら・・結構、カネがかかるんじゃないのか?」

「まぁ、かかりますが・・ほら、自分はそんなに趣味とかありませんし、リン君は未成年なんで、お酒飲む訳じゃありませんから、食事代ぐらいはなんとかなりますし」

「ふん・・」

本当に単にタカっているだけらしい・・だが、なんで自分が、そんなことで安堵しているのだろう。そう思うと、なぜだか無性に腹がたって来た。

「今日も、3時の休憩の時に抜け出して、カフェで逢う約束をしてるんです」

「あいつは鋼の・・エドワードとデキてるんだぞ?」

意地悪をしたくなって、つい、そんな余計なことを口走っていた。だが、ブロッシュはニコッと笑って「ええ、知ってますよ」と切り返して来た。

「デートはどこがいいとか、プレゼントはどれにしようとか、そういう話もしますから・・そういう時には、すっごく嬉しそうな顔をするんですよ。それがまた可愛いというか・・でもまぁそれに、自分はその、一緒にご飯食べるだけでも十分、楽しいンです」

「はっ・・そんなものかね」

3時の休憩の時に、カフェ・・ね。

抜け出すと言っているからには、軍施設内の公営カフェではなく、街の中なのだろう。どこだろうか・・いつぞや一緒に食事をしているところを見かけたことがある、オープンカフェだろうか。確かにあそこなら、なんとか時間内に行って帰って来れるし、コーヒーだけでなく軽食メニューも充実していて・・特に日替わりのパスタがなかなか美味い。

3時の休憩寸前に、ブロッシュに大量に仕事を押し付けてやろうか・・ふと、そんなことを思いついてしまった。午前中にサボっていたあの書類・・確か、不備がある分や上層部にあげられないとロイが判断した分は、部下に差し戻しになる筈だ。

「君とおしゃべりをして、リフレッシュできたよ。さて、仕事に戻るとするか」







セントラル中に響く時計塔の鐘が、3時を告げていた。今から指令部を抜け出して・・着くのは5、6分後か。
木製の華奢な椅子に腰掛けるとすぐに、すっかり顔なじみになった金髪のウェイトレスがお冷やを持って来たので、リンは「とりあえず、ホット」と注文した。

「ミルクはいるのよね? 砂糖は無しで?」

ウェイトレスはグラマーな胸乳を強調するようにシナを作って、バッチンと音がしそうなほど濃厚なウィンクをしてきた。
デカパイは好みジャねーんだケドナァと、リンは苦笑しながらにこやかに「ソウソウ」と答えてやる。

「今日は軍曹さんと?」

「・・の、予定だかラ今日も、日替わりパスタのランチ・・スポンサーが来てカラ注文するケド」

「“スポンサー”・・ね。彼氏じゃないんだ」

ウェイトレスはその呼び名が気に入ったらしく、しきり「そっか、スポンサーなんだ」と口の中で繰り返す。

「おーい、ボインちゃん、こっちも注文!」

別の客に声をかけられ、ウェイトレスは一瞬だけ唇をへの字にしたが、そこは職業意識ですぐに笑顔を作り「ハーイ」と明るく返事をした。

その“ボインちゃん”が、クイックイッと大きなお尻を振るようにして去り、リンはテーブルに肘をついて、所在なさげにお冷やのコップに唇をつける。

「モテるんだな、エロガキが」

不意に、背後から聞き覚えのある声がして、リンは思わず口に含んだ水を吹き出しそうになる。辛うじて、四方に放水するのは押しとどめたが、今度は肺に逆流して、豪快に咳き込んだ。

「ナッ・・なんでアンタがっ!」

「ブロッシュ軍曹は、仕事で来れないそうだ」

涙目でうずくまっているリンを見下ろし、イケシャアシャアと言ってのけたのは、果たしてロイであった。








引きずるようにカフェから引っ張り出し、ホテルのレストランに連れ込む。

「パスタも悪くないが、成長期なんだから肉を食え、肉を」

訳の分からない理屈をつけて、勝手にステーキを注文する。リンは最初途惑っていたようだったが、どこかの時点で居直ったのか、椅子に反り返りながら悠然とメニュー表を眺めて「コレも追加ね」などとウェイターに指示していた。

「蒸し物か・・時間がかかるぞ」

「休憩終わるカラ、アンタ途中で帰るんだロ? ひとりデゆっくり頂くヨ」

「ブロッシュ相手には、いつもそうなのか?」

「ン? ソーだけド。どうせ食べるダケだシ」

「オプションもないし、か」

「ケッ」

どうして最近来なかったのか・・と、最初は聞くつもりでカフェに来たロイなのだが、いざその場になってみると、そう尋ねてしまうと来るのを待っていたようで、なかなか切り出せなかった。だが、別の話題を用意していた訳でもない。

「前菜、遅いな」

「冷製スープだっケ? 確か、空豆ノ・・」

かろうじて、食べ物の話題が場を繋いだ。

「豆なんて言ったラ、エド、怒るダローナァ」

リンも気まずさを感じているのか、取ってつけたように話し始めた。

「あ・・ああ、そうだな。私も、エドとのディナーでコック長に“豆料理は抜きで”とこっそり頼んでいたら、それが聞こえてしまったことがあってなぁ。あのときはレストランが半壊する大げんかになって、参ったよ」

「ハハハ・・オレもさ、本日のオススメメニューっテ、小牛のレアステーキに小エビと小イモのソースがけのグリーンピース添えでゴザイマスって・・“小”尽くしのトドメが“豆”って・・モウ、大失敗だったことガアルヨ」

「そいつはひどい」

笑いながら、なにげなくリンの指先を見つめていた。
顔をじっと見つめるのは気恥ずかしいし、就職試験じゃあるまいし、衿元のボタンのあたりに視線を逃がしておくのも不自然だし・・リンは退屈しているのか、ナイフを包んでいた紙ナプキンをほどいて、コヨリにして弄んでいたのだ。
シン国の皇子サマはお行儀が悪いんだなと思う一方で「指が長いな、あの長い指で私は・・」などと、余計な空想が脳裏を過っていた。

「もう帰らなくちゃ、いけネーんじゃネェ?」

「前菜も食べずに帰れと?」

「休憩、終わるヨ」

「それを見越して、ブロッシュとは3時に逢い引きしてるわけか。悪いヤツだ」

「オプションねーからナ」

リンの指の中で、白い紙こよりが孔雀のような形に錬り上がっていた。

「行儀が悪いぞ」

「アン・・? ア、コレ? 確かにコレ、教育係のババーに見られたら、シバかれるトコダナ」

手を伸ばすと、リンがロイの掌にその孔雀を載せてくれた。小さいくせに優雅なS字を描いた首と、精一杯に広げた飛べない羽が、なんともいじらしく見えた。

「器用だな」

「ンーまぁ、そんなに難しくはネーんだけド、女の子とかに披露すると、結構ウケるよ。箸置きにしたりしテ、サ」

「私は、女の子扱いか・・」

「そんなツモリはネーケド・・単に、前菜、遅いナーと思っテサ。」

「お前が女の子か・・せめてエドなら、代わりに君をオードブルにしようとでも言って、部屋に連れ込むんだがな」

「キザだねェ・・ああ、来た来た。マダ帰らなくていいノ?」

「2人前注文したんだ」

「2人分ぐらい、食えるのニ、オレ」

食べているうちに調子が戻ってくるのを期待したが、次々と運ばれる料理をもくもくと胃袋に詰め込むばかりで、会話は一向に弾まなかった。

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【後書き】双方が、ちょっぴり意識しだした・・ってところかな。
実は初出では、エドがふたりの密会写真を買い取って・・というシーンを入れていたのですが、エドにバレているという設定は外すことにしたので、削除しました。既に読んでしまっているという方・・忘れてください。
ところで、タイトルがキスキスキスなんだが、まだこいつら、キスしてねーっ!
初出:2005年9月30日
誤字訂正&改訂:10月15日

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