「何これ? ロマネコンティ? フランスのワインがなんで、ここに」
いつものように、リン君と狩りの打ち合わせをしている時、すぐ側に転がっている瓶が目についた。
「あ、オイ、それハ駄目ダ、ヨセ!」
「なんだよ。ケチ。そりゃこんな退廃的な国のワインよりも祖国のビールが恋しいけど・・でも、あっちの世界の味を、少しぐらい懐かしんだっていいでしょう?」
瓶を取り上げようとしたのは、よそのお宅の嫁さん・・でも、なぜか男同士の友情を感じるんだ・・って、当たり前か。男同士なんだから。この世界に迷い込んだ頃には「この劣等民族が」って見下していたはずの、黒髪に吊り上がった目、華奢で細っこい身体も、何度か共同戦線を組んだ今は、むしろ頼もしく見える。
その肩を軽く押し返して・・いつもよりも妙に手応えが軽かったような気がしたが、不覚にも僕は、それよりもずしりと重いそのガラス瓶に気をとられていた。
苦手だった仏文の授業を思い出しながら読んだラベルは、確かにロマネコンティ。一度封を切った後らしく、軽々とコルクが抜けて、もったりとしたアルコール匂いが鼻をつく。こんなにキツイ酒なのかよ? それに、苦いような渋いような、胡椒を思わせるおかしな薫りまでする・・そう、東洋のカンポーってヤツ?
後で思えば、臭いがおかしいと思った時点で、素直にやめておけば良かった。
飲み下した瞬間に、喉を焼くような感触にむせ返りそうになる。瓶を取り落とさなかっただけでも褒めてほしい。異様な感覚に上体を折り、指を己の口に突っ込んで吐き出そうとするが、口の中が乾いていて唾液すら出て来ない。慌てて背中をさすってくれるその手が冷たい・・いや、僕の身体が熱いのか。そのまま、視界が暗くなっていき・・石畳の地べたに倒れ込んでいた。
「だかラ、ヤメロってイッタのニサ」
力一杯、平手打ちされて目が覚めた。まだ目眩がしていて、身体がふわふわした感触が収まらない。
「あれ・・何だったの?」
「サァ? 俺がこっちのカネもってネーからッテ、エンヴィーにパシらせて買いに行かせた酒なんだケドサ。その代わりニ持ってキやがっタのガそのクスリでサ・・何のクスリかとユーと・・自分デ確かめろヨ」
エンヴィーとは彼の旦那だ。リンよりも小柄で、女の子のような外見なので、最初はそっちが奥さんだと思っていたのだが・・まぁ、男同士の異常な世界だから、多少そのへんがおかしいのはお互い様。
僕の伴侶だって、男の子な訳で。
ヒョイとシャツがたくしあげられて、ぷるんとこぼれ落ちたものに、僕自身が驚いた。
「っ! でぇええっ! なんですか、これっ!」
「ナニって・・チチ」
「そんなに冷静に言わないでくださいよっ、どうしてこんな、非科学的なことっ!」
「あり得ないコトなんてあり得なイ・・ってコトらシーよ、この国でハ」
諦め切ったような、悟ったような、複雑な笑みを浮かべる少年・・そっか、彼も僕同様、元々この国の住人なのではなく、いわば巻き込まれてしまった身の上で・・って、彼?
僕は、自分のシャツを直すのも忘れて、思わず目の前の黒髪の胸元に手を伸ばしていた。そういえば、いつも前をはだけた短袍姿のくせに、なぜか今日ばかりはきっちり襟元までボタンを留めていて・・それも違和感があったんだ。案の定、むっちりと弾力のある脂肪塊がそこにはあった。
「イテッ! バカッ! スケベッ!」
「まさか・・あの瓶の中にあったのって、女になる薬?」
「そ・・うらしいヨ?」
「これを、ここの野郎共の半数に飲ませたら、まともな世界に戻るのかなぁ」
「ハイデ君って、ものスンゴク、ポジティブシンキングだネ」
リン君がため息をつく。その深刻な表情を見て、ようやく事態の深刻さに気付かされる。
「男の姿でいてさエ、ケツの穴の狙いあイなのニ、オンナだと知れてみろヨ、どんなメにあうカ」
「あー・・まぁ、そうですね。狩る側から一転、狩られる側になってしまいますね」
「元に戻る方法がネーカと捜してるんだけどサ」
「はぁ・・」
飲んでしまったものは、仕方ないとしか言いようがない。
逆に言えば、男の身でも女の身でも、されるコトに大した違いはないのだし・・でも、ああ、そうか。
「確かに、嫁のアル君に押し倒されるのは、やだなぁ」
「ソーイウ問題じゃないゾ」
「とりあえず・・今晩は、ここに泊めて。アル君には、なんとか適当に、言い訳の手紙書いておく・・どこかで寝過ごしたから、帰れないとかなんとか」
「トリアエズって・・おまえネー・・」
「僕の専攻は工学であって、ケミカル系は得意じゃないんですが・・成分を分析してみたら、何か解決の糸口がつかめるかも知れませんし・・図書館から参考になりそうな本でも捜してこようかな?」
「図書館ナ・・アソコ、通り魔が多いかラ、気をつけろヨ」
「あはは。通り魔のひとりは僕ですから」
「モひとりハ、俺だナ」
ニヤッと笑いあったふたりは・・肉体的には女同士になっていても、やはり心情的には、男同士の友情・・だった。
元の身体に戻れる手がかりがあれば・・と、僕は数日にわたって中央図書館に足を運んだが、そんな大層な代物が簡単に見付かる由もなく、埃をかぶった書架の上の段や、整理されることもなく積み上げられた分厚い古書までひっくり返しては、書籍で雪崩を作って他人様に大迷惑をかけていた。
ねぐらにしている憲兵司令部に帰らずにそんなことばかりしていては、アル君も怒ろうというもの。ついに図書館から出て、リン君がねぐらにしている病院の跡地に戻ろうしたところを捕まった。
「ハーイーデーさーん・・」
恨みがましい低い声に、思わず腰が引けて逃げようとしていたが、その前に小さな身体が背中に飛びついて来たかと思うと、胴体を力一杯、締め上げて来た。
「まったく・・一体、どこをほっつき歩いていたんだよう! 最近、図書館に居るらしいって噂を聞いて、捜したんだよ、ばかぁあああ!」
「ちょっ・・い、痛い、苦しい・・ア、アル君」
「え? あ、ごめーん・・てへ」
慌てて背中から離れ、アル君が僕の正面に回り込む・・僕は横隔膜を締め上げられた苦しさに上体を折って、喉をぜーぜー言わせていた。アル君がその僕の胸元を覗き込んで「でぇええええっ!」と喚き始めた。
「ハ、ハイデさんっ、そ・・それっ・・」
「あ・・はぁ、気付きましたか」
「その胸・・新しいアイテムの 付 け 乳 ?」
思わず、ズッコケてしまったが、アル君の顔はあくまでも真剣そのものだ。
そりゃあそうだろう、いきなり性転換するなんてことを信じろという方が間違っている。付け乳・・そんなものが存在するのか、ましてや僕がそれをナチュラルに身につけるかどうかと言われると甚だ疑問だが、確かにそちらの「偽乳」の方があり得る話ではある。
「えーと・・そういうことにしておいた方がいいのかなぁ」
「そういうことにって・・どういうこと? 触っていい?」
いい? という疑問形でありながら、こちらの返事も聞かずに、シャツの上からわしづかみにして来た。指がめり込みそうになるほど力任せに握られて、思わず「痛いッ!」と叫んでしまう。
「痛い・・? って、まさか、この胸・・ホンモノ!? ってことは・・」
なおも遠慮会釈なくムギュムギュと揉まれたので、痛みに耐えかねた僕は、思わずその細い手首を掴んで押さえ込んでいた。
「やっ・・およしなさい」
「いーやーだーっ! ちゃんと調べるのー!」
「こ・・こんなとこで、ですか?」
「そっか。そうだね。じゃ、憲兵司令部に帰ったら、調べて良い? その、胸だけなのか、さ」
嫌だと言えば、じゃ、ここで調べると言い張ってきかないだろう。とりあえずこの場を離れることを優先しなくては・・空は既に薄暮がかかり、半ばゴーストタウン化しているセントラルシティに灯る街の灯は乏しい。行き交い通り過ぎる人々は誰もが敵同然という、狂った環境だ。そんな場所で、ましてやこの身体を晒すなど、危険極まりない。
もちろん、完全なる安全地帯などもう、この国には存在しないらしいが・・それでも、僕らがねぐらにしている憲兵司令部なら、まだ少しはマシの筈だ。
「約束ね。帰ったら見せてね」
アル君は僕の手を握ると、るんるんと鼻歌を歌わんばかりに上機嫌で歩き始めた。
「おかえりぃ。いままでどこ行ってたの? おとーさん?」
僕らがねぐらにしている憲兵司令部に戻ったとき、明るい声で出迎えたのは、ちび君だった。
おとーさんと呼ばれているが、彼は別に、僕が誰かに産ませた子でもないし、そうだとすると年齢の勘定が合わない。ただまぁ、僕とアル君とで夫婦ごっこしているオママゴトに、子ども役を加えたというか。
金髪で碧い瞳は、僕によく似ている・・のだという。だから、ハイデさんみたいで、ほうっておけないんだよね、と言って、アル君が連れてきた子だ。
「まぁ・・ちょっと、調べ物。いろいろ、ね」
「ふーん?」
今日のちび君の服は、えらくフリルの多い黒いドレスだ。ちび君は、しょっちゅうどこぞで服を破いたり溶かされたりしているとかで、いつもテキトウな服を拾って着ているのだ。
それはオンナノコの服だよ、と指摘すべきかどうかいつも迷うのだけど、この世界にはもうオンナノコはいないのだし「冷え込む夜には、暖かくていいんですよ!」なんて元気よく答えられた日には、こちらも、もう返す言葉がないから、最近は黙っている。
アル君が軽く顔を引きつらせているのは、僕の体が変化していることがバレないか、いっそ説明したものか・・あるいは、なんと説明したものかと、迷っているからだろう。
しかし、ちび君はけろっとした顔で「夕飯できてますよ。美味しいかどうか、分からないけど、色々拾ったのを鍋にしたんです」と言うと、くるっと踵を返して、ステップでも踏んでいるような軽い足取りで、台所代わりにしている給湯室に歩いていった。
こんにゃくだのソーセージだの、訳の分からない生物(多分、触手の類い)が放り込まれた鍋料理は、見た目がかなりグロテスクだった。
アル君は「ぬるくてもいいから、カップラーメンでも探してきて食べようかな」と、げんなりしていたが、思い切って食べてみると、結構いけた。
「ハイデさんが居ない間、ずっとこんな調子だったんだよぅ。えうえう」
「だったら、アル君が作ればいいじゃないですか」
「ボクも得意じゃないし、というか・・まともな原材料がないんだもん」
「おとーさん、おとーさん! こんど生鰻地獄拾ってくるから、蒲焼作って!」
「はいはいはい・・拾ってきたらね」
「ちびーっ! お願いだから、“未使用”のものを拾ってきてネッ!」
“親子”3人で、大騒ぎしながら平らげ、暑くなったので羽織っていたジャケットを脱ごうとして、アル君に凄まじい目で睨まれる。
「駄目だよ、ハイデさん・・もう、不用心なんだから」
そう言われて我に返り、ようやく自分の体のことを思い出す。
変化した直後は、体の中心部が落ち着かないような、不思議な感覚だったが、図書館にこもって数日過ごしている間に、かなり慣れてというか、感覚が麻痺してしまっていたのだ。人間の環境適応能力とは、大したものだ。
ちび君は、そんなアル君の視線や、僕の身体の変化を、察しているのかいないのか、にこにこしたまま、お皿を洗ってくると行って、席を外してしまった。
「さーて、ハイデさん。約束、約束」
「え? はい、なんのことでしょう?」
「とぼけないでよ! ほら、調べさせてくれるって言ってたでしょう、カラダ・・ほら、脱いで脱いで!」
「ちょっ・・ここで、ですか?」
「司令部に帰ってきたらいいよって、言ってたじゃないかぁ!」
ちび君が居なくなった途端に、目を輝かせてアル君が迫ってくる。
「いえ、あの、ちびが戻ってきたら、どーすんですか。よしてくださいよ・・こんなん見られたら・・ちょっ・・危ないって、テーブルに足ぶつかるって・・コンロ倒れるよっ!」
「いーから、いーからっ! はい、脱いで脱いで!」
抱きついてきて、ジャケットを毟り取ろうとしてきたが、そうはさせじと体格差にものを言わせて押さえ込むと、手がアル君の脇腹に入り込んだ。そのまま・・とっさにくすぐっていた。
「ひゃぁっ・・くすぐったいって、ちょっ、ハイデさんっ!」
「はいはい、手を離さないと、もっとくすぐったい目に遭わせますよー・・こちょこちょこちょ・・」
「きゃははははははっ! やっ、やだやだ、ハイデさん脱がすのーっ! ひゃはははっ! やーめーてーっ!」
「まだ言いますか、この子は・・だったら、足の裏ですね」
「いーやーだー! ひゃっ、あはははっ、ずるいってば、調べさせてくれるってゆってたのに、うーそーつーきー! うひゃひゃひゃっ・・!」
意味不明の奇声を上げてのたうっているうちに、笑い疲れたのかアル君が、膝の上でぐったりしてしまう。
「ハーイーデークーン、フホーニューコクシャ、だって! 一緒に行クー?」
なんとかうまく誤魔化せたなと、のどをゼイゼイ鳴らしているアル君の背中をさすっていると、そんな声が聞こえた。
その、どこかアクセントの狂った独特の発音は、他でもない、リン君だろう。
平時には治安を維持するために活躍したであろう憲兵司令部の頑強な建物も、半ば廃墟と化している今は、入口も塀も崩れて侵入者を容易に受け入れてしまう。リン君は、その入口に首だけ突っ込んで叫んでいるのだろうが、やや甲高い声はよく通った。
「はーい、ちょっと待ってください、今行きまーす」
怒鳴り返すと、その僕の声に驚いたのか、猫のように撫でられるままになっていたアル君の体が、ビクッと小さく震えた。
「・・行くの?」
不安そうに顔を見上げてくる。目が潤んでいるのは、さっき笑い過ぎたせいだろう。
「え? 行きますよ。食事して体力もすっかり回復してますし、気力もばっちりですから」
「いや、狩りに行くのが好きなのは分かってるけど・・そーじゃなくて、今のカラダ・・」
「あ・・そっか。いちいち忘れちゃうなぁ。でも、大体・・」
「大体?」
大体、リン君の体だって・・と言いかけて、あわてて続きを飲み込んだ。
リン君の体だって女のものになっているから、狩りに行くぐらい、問題ないじゃないか・・と言いかけたのだけど、彼(彼女?)のカラダの秘密を、そうペラペラと喋っていいものではなかろうと、さすがに思いとどまったのだ。
「大体・・なに?」
アル君の瞳が、またいたずらっ子のそれになって、キラキラと光を放ち始めている。こういう時のアル君を言いくるめるのは、いつも苦労する・・苦労しながらも、大抵はうまく落とし込むのだけれども。
「さっきみたいに、押さえ込んでしまえば、襲われかけてもなんとかなりますよ。幸い、体格とかはほとんど変化がないし、女の身体の方が、ウエイトがあるようなので押さえ込みには向いているようです」
「そ・・そういうモン!? で、でも・・」
「大丈夫ですよ。ここ数日、図書館にいても、問題ありませんでした」
「そうは言ってもなぁ・・それに、その胸・・ジャケットだと分かりにくいけど、はだけたらすっごく目立つよ? 特にその・・乳首が」
「え? そうですか? 目立ちますか? うーん・・でも、ブラジャーとかするわけにもいきませんし・・あ、そうだ。ここに絆創膏とか貼ったら目立たなくなると思いません?」
ここに、と言いながら冗談めかしてバストトップを指さすが、そのおどけた態度がますますアル君の神経を逆撫でしたらしい。
「そんなんじゃだめーっ! 大体、乳首だけじゃなくて、全体的に・・ちょっ・・なんかサラシとかないのかなぁ・・」
「そこいらのびらびらした服を裂いて、サラシぐらい作れるでしょう」
「ハイデさんっ! 他人事みたいに言わないでよーっ!」
「そうはおっしゃられましてもねぇ」
女のカラダになっているという自覚が足りないのだから、そのあたりにいまいち真剣になれないのは、仕方ないことだと理解してほしい。何しろ、背丈や腰まわりなどの、基本的なカラダのサイズはほとんど変わっていないのだから、普通に起居している分には、何の問題もないのだ。まぁ、走れば乳房が揺れるだろうし、座って足を組めば股間が妙に寂しいと感じたりするが、それも意識しなければ、気にならない程度の微かな違和感だ。
「ヴォーヴォアールが『女性は、女に生まれるのではなく、女になるのだ』って言ってたけど、あれって、こーいうことなんだなぁ」
「何言ってるの? ヴォーヴォアールって誰?」
「え? ああ、フランスのサロンで有名な女性でね・・いや、こっちの世界じゃないんだけど。つまり、いきなり女の体になって、せーのサンハイで、女っぽくなれるというわけでもないんだなぁって。ジェンダーは後天的に学習されて身についたものいうことが、なんとなく理解できたというか」
「また、そんな訳わかんない理論で、ボクを煙に巻こうとして!」
「訳わかんないって言われても・・素直な実感なんだけどなぁ」
「どこが素直なんだよ、もう・・どーして、こんな理屈っぽくて口が減らなくてひねくれてて扱いにくい人を好きになっちゃんたんだろ、ボク・・つくづく見る目ないよなぁ」
「僕がお嫌になったんなら、別れましょうか?」
「そーじゃないってゆーのに! もう・・キーッ! 手、挙げて、手! 胸縛るからっ!」
ヒステリックに叫びながらも、手は布切れでさらしを作って、胸を押さえるように巻きつけてくれるのだから、本当に甲斐甲斐しい。それを指摘して褒めれば、また「ハイデさんがものぐさだから、仕方なく世話やいてるの、分かってるの!?」と喚かれるのだろうけど。
これ以上アル君を怒らせて、頭に血がのぼって鼻血でも吹いたら大変だと思い、おとなしく言われるがままに両手を挙げて、じっとしておく。
苦戦しているのを見下ろし・・その口元が笑っていると、アル君がまたもや文句をつけて、ギャアギャア喚いていたのだが・・やがて「あーっ、サラシだと押さえきれないっ!」と叫ぶや、その布を床に叩き付けてしまった。
「・・ハイデ君、なにやってンノ?」
あまりに遅くなったので、待ちくたびれて覗きに来たのだろう。司令部の建物に入り込んだリン君が、あきれ顔で部屋を覗き込んできていた。
「ああ、ちょっと準備が・・ちびーっ、お客さまにお茶いれてあげてーっ」
「はーい、おとーさん!」
「オトーサン?」
ちびを“養子”にしていることは知っているはずなので、この場合のリン君の疑問はむしろ、僕がおとーさんと呼ばれていることへの違和感だ。
「・・オンナのオトーサンと、オトコのオカーサン・・?」
「何か言いましたか?」
ちろりとにらむと、リン君は「アハハハハ・・」と、不自然に乾いた笑いを浮かべながら「じゃあ、アッチでお茶頂いてクルネー・・準備できタラ、呼んでネ」と言って、応接室の方に去っていった。
「あ、そうだ・・ハイデさん、ガムテープはどう?」
「ガムテープぅ!?」
「うん、あれなら固定できるし・・」
「かぶれますよ」
「素肌の上から貼らないで、シャツの上からなら・・こう、サラシみたいにぐるぐる巻いて押さえたら・・」
どうやら、アル君はまだ僕のバストがどーにかならないか、真剣に考えていたらしい。
「別に、そこまでしなくても・・」
「だって、ボクのハイデさんがオンナになってるってバレて、手を出されたりしたら、イヤだもん!」
「こんな大女に欲情する物好きも居ないと思いますがねぇ?」
「そもそも女が居なくて男同士でヤりあってるよーな状況なんだから、木の股相手にだって欲情しかねない連中だよ? 大女だろーとオカメチンコだろーと、狙われるってば!」
「僕はオカメチンコですか」
「・・ハイデさんは、黙っていさえすれば、キレイなのっ! 口を開いたら変態腸詰だけど・・」
「褒めてるんだか、けなしているんだか・・」
「ともかく、ガムテープ、ガムテープ・・憲兵司令部のどっかにあるとは思うんだけど」
アル君はそういうと、ガサガサとそこいらの机の引き出しだのキャビネットだかを漁り始めた。
【後書き】攻防戦のメンバーによる小説です。もちろん、ゲーム内でこういう事件があったわけでなく、あくまでも設定を借りたパロディですが。
攻防戦をご存知ない方にも、独自の世界観をお楽しみ頂けたら幸いです。
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