僕の胸をカモフラージュするためのガムテープをしつこく探し回っていたアル君が、勢い余って、豪快にキャビネットをひっくり返してしまった。
さすがにオンナノコのような黄色い悲鳴こそ出ないが、僕もアル君も思わず、全身が硬直して、立ち尽くしていた。どうやら、こういう時の人間は、判断力を一瞬にして失ってしまうものらしい。視界の中では、やけにスローモーな動きに感じたが、実際に手を出して、ぶ厚いファイルが詰まったそれを支え、留めることは不可能だったろう。
幸いキャビネットはあさっての方向に倒れたために、どちらも怪我ひとつすることはなかった。
その大音響に驚いたのか、やがてあわただしい足音がしたかと思うと、ひょっこりとちび君が「おとーさん、けんか?」と、部屋を覗き込みに来た。その背中越しにリン君の姿も見える。いつもニコニコ作り笑いをして表情が分かりにくいリン君だが、さすがに唇の端が軽く引きつっていた。その細い手にやかんを握り締めていたのは、青竜刀と間違えて、とっさに手にしてしまったのだろうか。
そのふたりの視線を辿って、アル君を振り返ると、血の気の失せた顔色をして茫然としている。ショックのあまりにだろうか、とっさには言葉が出てこないらしいので、代わりに「いや、けんかじゃないよ。ちょっと、ガムテープを探してて」と答えてやる。
ただ、僕自身も平常心ではなかったようで、自分の声がややうわずって、他人の声のように聞こえていた。
「ガムテープ? ナニにすんダ? つーカ、その室内ナニゴト?」
その言葉に我に返り、改めて周囲を眺めると、キャビネットはぶち倒れただけでは飽きたらずに、食卓テーブルにしていたデスクと椅子をなぎ倒し、簡易コンロを吹き飛ばし(ボンベが爆発していたら、即死だったろう)、そのついでに本棚まで巻き添えにしていたようだ。
いわば一瞬にして、室内は台風でも通ったかような惨状と化していたのだ。
「うーん・・だから、ガムテープ探してた・・筈なんだよね。で、勢いでこれ、倒しちゃった・・だけなんだけど」
「ふーん? ガムテープ? えっと・・書庫で見たような気がするなぁ・・ほら、調書とかの書類を保管する箱を、ガムテープで留めてたから。持ってきてあげるね?」
切り替えが早いのか、それとも恐ろしくノンキでこの事態を把握していないのか、ちび君は明るい声でそういうや、パタパタと駆け去っていった。
それを見送って、なにかの呪縛が解けたように、僕とリン君が溜息をつく。それがほぼ同時だったのがなぜかおかしくて、思わず顔を見合わせると笑いがこみ上げてきた。
「・・それにしてモ、ゴーカイだネェ・・スィング木馬振り回しテモ、こんだけの大被害デネーヨ」
「ほーんとですね・・この部屋、片付けるの・・どうしましょうねぇ」
「憲兵司令部っテ、他にもいっぱい部屋があるんダロ?」
「そうらしいですよ。じゃ、この部屋棄てて、別の部屋を使うことにすればいいかな?」
転がっていた椅子を拾い上げる。1脚は木製の脚が折れてしまっていたが、もう1脚は無事だったようだ。勧めてやると、まだ立ち直っていないらしいアル君は、素直にぺたりと腰を下ろした。
「ンで、なんでガムテープ?」
「だから、サラシの代わりに胸に巻こうって、アル君が言い出して・・布じゃ押さえ切れないって」
「ソだネェ・・俺ハ、サラシで足りてるけド・・っつッテモ、ゼッテー俺、ひんにうじゃネーつもリだけド・・何カップぐれーあるんだロネ? その胸」
「さぁ? 巨乳というよりは、単に図体に比例してるだけだとは思うんですがね」
そんな会話を交わしながら、ちび君の帰りを待っていると、アル君がやけに訝しげな視線をこちらに送っていたようだ。ふと口をつぐんだリン君に、肩をつつかれて振り向くと、先ほどまで蝋のように白かった頬を、紅色に染めているアル君と視線がぶつかった。細い眉がきりりと吊り上っている。
「・・はい?」
「どーいうこと? リンさんも女で? で、ハイデさんのことも知ってて? あのさ・・ちゃんと説明してくれない?」
「ちょっト、イロイロあっテ・・ネェ、ハイデ君?」
「うん。そうそう。いろいろあったんだよね。ねぇ、リン君」
「ふーん。いろいろね・・で、そんなんで納得できるかーっ! おまえらグルかーっ!」
「お、落ち着いて、落ち着いて、アル君・・ここで暴れたら危ないから。ほら、ガラスとかも割れてるし」
「おとーさん、ガムテープあったよーう」
一触即発の空気を唐突に打ち砕いたのは、ちび君の明るい声だった。
にらみ合いになっていた僕らがガクッとコケたのに気付いているのか、いないのか。にこにこしながら、ガムテープを2巻きほど差し出してきた。
「あ・・ありがとう。じゃあ、仕度して・・すぐ行くから、リン君、外で待ってて。ちび君、後でここ・・多分、片付けられないと思うから、どっか司令部で使えそうな部屋、アル君とふたりして探しておいてくれる?」
「はーい」
事情聴取が中途半端になってしまったことにアル君はひどく不満だったらしく、リン君とちび君が部屋を出て行くや否や、力一杯足の甲を踏まれてしまった。
物騒な大型武器を担いで夜道を歩きながら、僕とリン君は、
「で、その不法入国者って、どこ?」
「エ? 言ってなカッタっケ? 地下道ダヨ」
「地下道かぁ・・あそこ、僕、相性が悪くて苦手なんだよなぁ」
「フーン? ジャ、帰ル?」
「いや、ここまで来たんだから、行くよ」
・・などと、無駄話をしながら歩いていた。
四方に月影はなく、本来は街を煌々と照らしていたであろうガス灯も、今は点火して回るものとていない。ただ、星だけは降ってきそうなほど鮮やかに天空に広がっていた。
「・・月夜の晩だけじゃないんだねぇ」
「ハイデ君、こワっ・・その表現、マフィアみたいダヨッ」
「えっ? ああ、そうかなぁ・・そっか。そういう言い回しもあるよね」
これからハンティングに行こうというのに、会話にまったく緊張感がないのは、僕らの間ではいつものことだ。
地下道へ続く入り口となる、崩れかけた建物の前にたどり着いた。
ここから先は、さすがにランタンか松明が必要になる。一度立ち止まって、僕が靴の底でマッチを擦って、その火をランタンの灯心に移そうとする。風はない筈なのだが、地下から空気が吹き上がっているのか、しばしば炎が揺らめいて、火が消えそうになった。
なかなか着火せずにてこずっていると、隣で瓦礫にもたれてぼーっと宙を眺めながら待っていたリン君が、ぽつりと「ナァ、その身体でヤった?」と尋ねてきた。
「はぁ!? うわちっちっ・・・! なっ、ななな・・何を言い出すんですか、突然!」
「イヤ、せっかくのオンナの身体だシ」
思わず動揺して、指先を焦がしてしまったが、ランタンを放り出して割ってしまったりしなかっただけ、まだマシだ。
「いや、ずっと図書館にこもってましたし・・帰ってからも、3人でご飯食べて、ガムテープ探して・・って、そんなヒマありませんでしたから」
「アーソウ・・探究心旺盛なハイデ君だっタラ、絶対、試してルって思ったケド」
「マスターズ&ジョンソンのリポートで理論的なことは解明されてるので、別に追認実験をするまでもないと思いまして」
「何ソレ」
「そーいうのが、僕の居た世界にはあったんですよ」
「ソンで? オンナのカラダはどーいうふうにイイの?」
「基本的には、そんなに変わらないってことですよ。どっちがイイかなんて、実に不毛な議論です」
「えらいキッパリ言い切るンダネ。具体的にハ?」
「そうですねぇ・・女性器の奥は男性が期待するほど敏感ではなく、むしろ無感覚で、本来の性感帯は男性と同じ排尿器官であること、そこに通る神経の数は同じであること・・そして、いわゆるGスポットといわれる部位は、男性でいうところの前立腺に相当すること・・と、このように科学の視点を通して、不必要な幻想をひとつひとつ排除して分析してみると、殊更に女性のカラダだからといって、男性よりも圧倒的に気持ち良いと結論つけるだけの論拠はないんです」
「そ・・んなモンかなぁ? でもさ、イクっていう感覚ハ、違うダロ? 男みてぇにデねぇんだシ」
「ああ、女性の場合は、軽い脳貧血状態なんですってね。だから、心肺機能が弱いと失神しやすいそうですよ。ほら、失神ごっことかいって、首を絞めてオチる瞬間がキモチイイっていう悪戯があるでしょう。あれと同じ原理です」
「へー・・ハイデ君っテ、夢がないネー!」
「そうですか? どうせ夢を見るなら、フィジカルなセックスよりもむしろ、僕はスピリチュアルな愛の世界に、夢をみたいですね」
「ブーッ! キザッ!」
「うるっさいなぁ・・もう。はい、火、つきましたよ。行きましょう」
照れ隠しもあって、やや乱暴な口調で会話を遮った。
負けん気の強いリン君のこと、いつもだったら、何か軽口の一言二言が返ってくるところだが、その時に限って、なぜか気の抜けたような小声で「・・そダネ。行こッカ」と呟いただけだった。
地下道は、下水道に相当する水路と、それに添って伸びる坑道で成り立っている。
階段を降りて、もっと奥深い地底まで進めば、地下都市に繋がっているともきいたことがあるが、僕はそこまで行ったことはない。
下水道の水は生臭く、ヘドロ混じりの濁ったもので、ただの生活汚水とはとても信じられない。多分、この国に何かが起こって、ライフラインを維持するだけの正常な判断力が奪われた時から、下水処理も滞り何もなされずにただ、汚物が押し流されて溜まっているだけなのだろう。とても生物が生きていける環境とは思えなかったが、それでもコウモリやドブネズミの影が視界の端を奔っていた。
時折、ぼこぼこと気泡があがってきているあの水の中にも、何か得たいの知れない生物が棲んでいるような気がしてならない。例えばそう、忘れた頃に発生しては周囲を食い尽くしていく、巨大触手生物のような。
壁には一応、鉄製のパイフが幾重にも這わされているが、これが何を通していたのかは、僕には見当がつかない。ガスや蒸気の類いかもしれないが、ところどころ老朽化してひび割れているそのパイプの内部は空っぽだった。
もし、この国の人々が正気に戻ったとしても、ライフラインを復旧させ、ありし日の繁栄を取り戻すには、長い歳月が必要になるだろう。
「地下道・・やっぱり好きになれないな」
踏み出すたびに、靴がニチャニチャと耳障りな音を立てるのは、地面にもヘドロだか粘菌だか分からない物体が敷き広がっているせいだ。こんな場所に好き好んで逃げ込む輩がいるなどと俄かには信じ難いが、まぁ、逆に人が来ないことを期待してわざわざ、ねぐらに選ぶものだって皆無ではないのだから。
「火、弱くナッテきたネ」
「酸素が薄い・・のかもしれませんね。僕も少し、息苦しい」
「エ? 俺ハ平気だけど・・ア、ソッカ、一応、肺悪いんだっケ」
「一応とは何ですか、一応とは」
「最近、あんまリ咳き込んでナイシ」
「ああ、最近、ロケットの実験をしてないから・・ほら、煤煙を吸ったりとか、ね。そういうことがないから・・少しマシかな。でも、完治する病気じゃないらしいから。それにこの性格だと、あまり病人扱いしてもらえません」
「アー・・確か二。それは言えるネ」
「・・いや、そこは肯定じゃなくて、ツッコむところ!」
「へ? そーなン? それにマァ、そのガムテープ、きつソーだしネ」
その時、視界を大きな塊が横切った。もちろん、ネズミのサイズではない。
「・・・居た!」
ランタンを持っていたせいで、僕が一瞬出遅れた。胸を締め付けているせいで、息苦しさに身体の動きが鈍っていたというのも、理由のひとつだ。
リン君の黄色い上着がぶわりと翻ったかと思うと、滑らかな動きで青竜刀が舞った。殺すつもりはないので峰打ちのはずだが、それでも豪快に『獲物』の体が吹き飛び、壁に激突した。
「一撃必殺ダナ」
「ちょっ・・僕の分も残しておいてくださいよ・・あーあ。もう失神しちゃってる。しかたないなぁ、もう・・何か、いいもの持ってないかなぁ」
僕は、ランタンを地面に置いて、その『獲物』の側にしゃがみ込んだ。
彼は、この国の事情を知らないで迷い込んだ異邦人らしく、赤い髪の色も目鼻立ちも身につけている衣類も、あまり馴染みのないものだった。
狂った無政府状態でも、生存のための最低限のルールというものは自然発生するものらしく、それを乱す異邦人は「不法入国者」と称して狩猟の対象にすることが、暗黙のうちに認められているのだ。
もちろんそれは、この行き詰った、いつ終わるともない世界に暮らし続けるための、一種のガス抜きとしてでっちあげられた、単なるスケープゴートにすぎないのかもしれないけれども。
泥まみれになった『獲物』をひっくり返してみると、肩から腹にかけてタスキ状にまわした布袋に、なにやら本のようなものを抱えているのが分かった。
「禁書?」
「それにしてハ、手ごたえなかったヨ」
袋を奪って中身を取り出してみると、羊皮紙で表紙の四隅を金属で飾った、なにやら前時代的な書物で、タイトルの部分はナイフで削り取られていた。開くと、一見ただの経理報告書のようであった。だが、表紙の物々しさからして、錬金術関連の書物であることは見当がついた。
これは自分で解析するより、当人から事情聴取した方が早かろうと、僕はそいつの髪を掴むや、傍らを流れる下水に、顔を突っ込んでやった。
「ウワー・・乱暴ナ介抱ダナー・・ハイデ君のそーいう外道なトコ、嫌いじゃナイナ」
「お褒めに預り光栄ですね」
意識を取り戻したらしい『獲物』が、息苦しさに暴れだしたので、引き上げてやり、その顔面に本を突きつける。
「これ・・何の本だ? 素直に教えてくれたら、見逃してやらないでもない」
「し・・知らない」
「・・地下道の水って、美味しいのかな?」
もう一度、黒々とした水面に顔面を沈めてやった。リン君は、その非道をとめるどころか「キャー! ハイデ君、コワーイ!」と、きゃあきゃあ喜んでいる。
「はい、もう一度。大きな声で、元気よく答えようか?」
「わ・・分かった、尻は・・尻は勘弁してくれ、頼む、これ以上尻が・・」
「尻? あーはいはい。アンタの汚い尻に興味はないから、この本について教えてくれないかなぁ?」
「その本か? こ・・国立図書館跡で・・探し出した。アメストリス国は錬金術が盛んだというから・・来てみたらこの有様だったから、せめて土産代わりにと」
地下道の水がよほど“美味しかった”のか、『獲物』はこちらが拍子抜けするほどあっさりと、ベラベラ喋った。ただ、頬が腫れあがり、前歯も欠けて血まみれの口では、ひどく喋りにくそうではあったが。
「錬金術の本なのは、なんとなく見当がつくけど・・何に関しての本かは、分からない?」
僕もここ数日、図書館の本は片っ端から調べていたが、この本は記憶になかった。特徴的な装丁の書物だから、もし一度目にしていたら、必ずや覚えていただろう。
「人体錬成・・いや、人体改造という方が正確かも・・性転換とか、変貌といった類いの・・」
「性転換?」
思いがけない展開に、僕もリン君も唖然とした。
「た・・助けてくれるんだろ?」
見上げる『獲物』の視線が卑屈で気に入らなかったが、約束は約束だから、逃がしてやることにした。髪を掴んでいた手を離してやると、生まれたての牛か何かのように、よろよろと覚束ない足取りで、地下道のさらに奥へ、奥へと逃げていく。妙に内股になって、尻のあたりを手で押さえているのは、図書館やここに逃げ込む途中でも、僕らのような狩人に散々“掘られて”いるせいだろう。その姿を見ていると、尻だけは勘弁してくれと、泣き喚いていた気持ちも、理解できなくない。
「あっチの方向・・ここをねぐらにシてる連中が居るんじゃナイ?」
「地下道を出ても出なくても、襲われる危険性は変わりませんよ。見逃してやるとは言いましたけど、国境までエスコートしてやるとは言いませんでしたし」
「カーワイソー・・」
その言葉とは裏腹に、リン君の顔はニコニコと笑っていた。
やがて、もと来た道を戻って行く僕らの耳に「尻が、尻が!」と、先ほどの『獲物』の悲鳴と思しき断末魔が聞こえて来たが、リン君はその笑顔を崩すことはなかったし、僕も聞こえないふりをしていた。
その本を持って・・僕は憲兵司令部には戻らずにそのまま、リン君がねぐらにしている病院跡に向かった。帰ればアル君がにっこり笑いながら「ハイデさんを襲うんだ」と、爪を研ぎ研ぎ待っているに違いない。そんなことになる前に、なんとしてもこの書物を解読して、解毒剤を調合しなければ。
「錬金術師の人が居れバ、もっと解読しやすいンだろーケドネ。さっきのお尻のオッチャン、ここまで連れて来て、解読させたラ良かっタかナァ?」
「でも、あの人を匿って、庇いきることができるとはとても思えませんし」
「そーだよネェ。尻のオッチャンの仲間だト思われタラ、バカバカしーヨネ」
「まぁ、でもこれは数字の羅列ですから、規則性が分かれば案外、早いかもしれませんよ。キーが分かれば、反転させて平文が出てくるはずで・・基本的には群論の応用なんですが」
「なんのコトヤラ、俺、チンプンカンプンだヨ」
「ロケットの軌道計算に高次方程式を使いますからね・・こんなことに役立つとは、思ってもみませんでしたけど」
もちろん、錬金術師が仕掛けた暗号がそんなに簡単に解けるはずもなく、丸3日ほど、ろくに寝ずに頭を抱えることになったのだけれども。その間に、アル君に命じられて僕を捜しに来たらしいちび君が、ひょっこり顔を出して・・見付からなかったと答えるんだよと、言い含めて追い返したりして。
リン君が心配して、アル君のお兄さんの、エドワードさんでも捜してきて、手伝わせようかと言い出した頃に・・なんとか、化学式らしきものが、暗号の底から浮かび上がって来たのだった。
それは最初、あの例のロマネコンティの瓶に詰まっていた薬を解析した化学式に良く似ていた。一見すると、ただ、反転しただけのようにも見える。だが、もちろん、反転しているからといって逆の作用を示すとは限らないし、かといって、重ね合わせることができるから同一のものと言い切ることもできない。似て非なるもの・・とでも言うべきだろうか。
「この薬・・性ホルモンに影響・・するのカナ?」
「さぁ・・もう、考え過ぎて頭がウニ状態です・・これを合成して飲んで・・果たしてうまくいくのかどうか、保証はありませんけど。それに、一文、どうしても解読できない部分があって・・それが不安要素ではあるんですが」
ぐっと両手を上げて伸びをしてから、片手で顎に触れていたのは多分、無精髭でも生えているのではないかと無意識に思っていたからに違いない。当然、そのようなものが生えている由もなくツルンとしていたのが、妙に違和感を感じさせた。あと、ブラジャーをしていない乳房の下が、シャツの中で汗ばんで、やけに気持ち悪い。
「タマタマが汗かいて、腿にひっつくヨリハ、マシじゃネ?」
「似たようなもんですよ。ひっつくモンが、股にあるか胸にあるかの違いだけで」
「ハイデ君・・ホント、この身体エンジョイしてナイネ」
「健全な青少年として女の子とヤるのは、多分嫌いじゃない筈ですけど・・自分が女の子になってもねぇ」
「この期に及んデ、健全って自分デ言うカ? それにしてモ変なトコ、ポジティブシンキングなハイデ君らしくないネ」
「正直、こんな巨乳は好みじゃないんですよね。手乗りサイズぐらいが好きなんで、自分の裸を見ても、いまいち興奮しませんし・・鏡を見ても色っぽくないというか」
「せっかクのダイナマイトバディなのニ、ワガママだナァ」
呆れ返るリン君を尻目に、僕はその『解毒剤』の調合にかかっていた。
夜明け前に出来上がった液体は、琥珀色でどろりとしており、どういう化学変化を経たものか、甘ったるい匂いを発していた。
薬酒のような独特の臭みがあった、あのロマネコンティもどきよりは飲みやすそうだが、果たして本当に飲んで効果があるのか、そもそも命に別状はないのか・・ということを考えると、あまり食欲(?)が沸きそうにない。いや、そもそもこんな徹夜明けのコンディションで、食欲などある由もないのだが。
「お腹壊したらごめんね?」
「ダメモトってヤツだネ。牛乳用意してオイタヨ」
「牛乳?」
「ヤバそうだったラ、牛乳たくさん飲んで、吐ク」
「ワイルドだなー・・」
診察室であったろう部屋の、ドクターのデスクにコップを並べ、僕とリン君が顔を見合わせている。電気など通っているわけがない室内の灯りは、妙にねじくれた形をした松明の炎だった。実はそれは、何回か通過した巨大触手の残骸で、乾燥したそれは動物性油脂をたっぷり含んでおり、松明にするとよく燃えるのだ。
思い切って動いたのは、製造者責任の念(?)に駆られた僕の方だった。
コップを手に取り・・それはまだ生温かく、匂いとはまるで違う苦い味がした。もったりとした舌触りでそれは喉を滑り落ちていき・・胃の奥で激しい痛みにも似た熱を放った。そこから全身に熱が広がっていくが、額や背筋には冷や汗に似たものが浮き出て、熱いのに寒い・・そんな妙な感覚がした。
苦しさに思わず身を折るが、舌が引き攣れたようになって、それを吐き出すにも吐き出せない。
「ちょッ・・おまっ・・牛乳のメ、牛乳・・!」
だが、コップに手を伸ばすこともできず、視界が暗転した。右手から滑り落ちたコップが割れる音が、ひどく遠くで聞こえたような気がした。
「オメデトー」
目を開けたときには、カーテンのない窓の外の空は、漆黒から淡いグレーに変わりつつあった。建物に隠れて見えない地平線の向こうは多分、薄紅色を帯び始めているに違いない・・そんな色合いだった。その空模様に、かなり長いこと意識を失っていたことを察することができた。
「おめでとー?」
僕は、かけられていたシーツを跳ね除けて、床から起き上がる・・シーツ?
多分、最初は床に転がしたままではなく、ベッドに寝かせようとしたが、僕の図体が重すぎて、引きずり上げることができなかったのだろう。頭の下には、枕まで置いてあった。
『おめでとー』の理由になんとなく思い当たって、己の胸を見下ろす。そこには・・ここ数日の肩こりの原因となっていた巨大なふたつの脂肪塊は無く・・代わりに、見慣れた平たい胸板があった。
「・・ってことは・・!」
思わずベルトを緩めて、股間を確かめてしまった男性心理を、どうか理解してほしい。そこにあるべき器官があるべき姿で鎮座していたことの喜びといったら!
「やったっ・・! 戻ってるっ!」
「良かったネ・・って、デケー・・ふやけタんじゃネ?」
「フツーですよ、リン君ってば、失礼ですねぇ」
「使いモンになりソー?」
「それは・・帰ってから試します。とりあえず“形”は戻った・・と」
「ハイデ君、良かったネー・・って、嬉しいのハ分かったかラ、パンツ履ケ!」
「じゃ、また後でねぇ・・ジュニア君、バイバーイ」
「お、おまっ・・チンコに名前なんカつけるナ! ましてヤ、笑顔デ呼びかけるナーッ!」
一通り大騒ぎしてから、下穿きを直す。
ひどく汗をかいていたようで、全身がまだべたつくが、気分はすっかり良くなっていた。
「ジャ、俺も飲んでミル・・ハイデ君がブッ倒れるぐらいだカラ、俺は先にベッドに横になっておこうット」
そういうや、靴を脱いでパイプベッドによじ登り、両足を投げ出す。毛布を丸めて背もたれにすると、片手を差し出して薬をよこすよう、無言でねだってきた。
どうぞ、とコップを差し出され、さすがに一瞬戸惑ったようすだったが、すぐに力強い所作で受け取り、一気に飲み干した。
「・・ウグッ・・」
嚥下する前に吐き戻しそうになったらしく、口元を押さえて身を折る。その苦しさはつい先ほど僕も経験したものなので、その背を撫で、片手を握ってやって、励ますしかなかった。だが・・本当に僕が経験したものと同じだろうか?
僕の場合は、すぐに意識がブラックアウトしたのだが・・リン君の苦痛は、やけに長く続いている気がする。透き通るような肌の顔容は、青白さを通り過ぎて緑がってどす黒く、額に浮かぶ汗もぼたぼたと滴るほどだった。不安そうに見上げる瞳は真っ赤に充血しており・・血の気を失った唇がわなないていた。
「だ・・大丈夫かい? ちょっ・・吐いた方がいい?」
あまりに痛々しい苦悶の表情にそう尋ねると、気丈にも黒髪を乱すように首を振って耐えようとするが、苦痛の激しさの割には、肉体に変化の兆しが一向に見えそうになかった。
そっと手を引き剥がし、洗面器かそれの代わりになりそうなものを探す。
幸い、病院ということで、薬棚の中にアルマイトの器を見つけることができた。ソラ豆の形をしたそれは、多分、手術の際に器具を入れておくためのものなのだろう。その器と牛乳のコップを手にベッドに戻る。
「牛乳・・飲めそう? そのまま吐く?」
器を差し出してやると、ヘドロの底から気泡が上がってくるような、嫌な音がリン君の喉の奥からこみ上げてきた。やがて、どす黒い廃油のような反吐がぶちまけられる。飲む前と色が異なっているのは、胃の中で何か変化したのか、それとも胃の中が出血して、血が混ざりこんだのか。
リン君は、ぐったりしながらも牛乳を飲み下して、さらに吐き出す。
「・・ズルイ」
しばらくゼイゼイと喉を鳴らした挙句に、ぽつりとリン君が吐き出した台詞がそれだった。僕は、リン君の汗だくの背を抱きかかえて撫でてやりながら、その肩が相変わらず薄く、腰周りがふっくらと柔らかいのを感じていた。
僕自身、どうして同じ薬がリン君に効かなかったのか分からないから、ズルイといわれても答えようがない。悔し涙がこみ上げてきたらしいリン君に、僕はただ、タオルを差し出してやることしかできなかった。
やがて、心身ともに落ち着いたらしいリン君が、照れ隠しなのかなんなのか、ドスッと見事な肘鉄を食らわせてくれたので、僕はリン君を置いて、後片付けをすることにした。突かれたわき腹の痛さからして、体調はもう大丈夫だろうと思われた。
吐瀉物をトイレに投げ込み、ライフライン寸断のため水が流れない便器を、雨水をためているらしいバケツの水で洗い流す。割れずに残ったコップや、調合に使った器具も、別のバケツの水に浸けてすすいで片付け、最後に床掃除でもしようと、モップ片手に、リン君が寝ている部屋に戻った。
「ただいまー・・お腹すいたね。床拭いたら、ご飯でもどっかから調達してこようか・・」
そう、独り言とも呼びかけともつかないことを口走りながら扉を開けると、デスクに座っている小柄な人物に気付き、ギョッとする。
「誰・・あ・・リン君の・・」
黒髪を長く垂らし、露出度の高い黒い服を着込んだ男は、豹のように吊りあがった赤い目でチラリとこちらを見、冷たい表情を変えることなく再び手元に視線を落とした。リン君の旦那さん・・だと聞いている。
一瞬、侵入者かと思って、身構えていたが、いわば身内のような関係と気付いて、ほっと息をついた。僕は無意識にモップを構えていたが、本格的な戦闘になれば、モップなどはもちろん無力だったろう。
「ああ、おはようございます、エンヴィーさん」
いつもニコニコしているリン君とは対照的な、その仏頂面にとっつきにくさを覚えつつも、わざと声を明るくして挨拶をしてから、モップかけを始めた。
「リン君、やっぱり身体・・ダメだった?」
床を拭きながら尋ねると、毛布を丸めて背もたれにしていたリン君が、ぼんやりとした表情で頷く。汗ばんで肌に張り付いた服が、艶かしい女体のラインを浮き彫りにしており、その虚ろな表情と相まって、むせ返るような色香を放っていた。
正直、この場に旦那であるエンヴィーさんが同席していなかったら、どうなっていたことか分からない。僕の“ジュニア君”が使い物になるかどうか、この場で確認していなかったという保証はなかったろう。慌てて目を逸らし、リノリウムの床に散らばったガラスの破片に意識を集中して、気を紛らわせる。
「ダメだぜ、ちゃんと書いてあるじゃねぇか」
不意にエンヴィーさんがそう口走り、僕は思わずモップを取り落としそうになった。振り返れば、エンヴィーさんは例の書物を広げ、僕が調合の成分分析のために解読した部分を覗き込んでいた。
「・・書いてある?」
「ここ。古代語で記した注釈だ」
エンヴィーさんが指差している一行は、まさに僕が解読できなかった部分であった。古代語・・なるほど、それならいくら暗号を解読しても、僕に意味など分かる筈がない。
「なんて・・書いてあるんですか?」
「花器に精を受けしは戻るあたわず・・要するに、ヤっちまったら、元には戻らないんだよ」
それを聞いて、思わず僕は、リン君の方を振り返っていた。
リン君もそれが聞こえていたのか、先ほどの薄ぼんやりした表情から一転、柳眉を逆立てて険しい表情になっている。
「ヤっちまったらって・・」
「ダッテ、エンヴィーが試してみないかっていウかラ・・そンデ、実際にヤったらヨくって、その・・ついつイ・・エンヴィー、まさカ、ソレ知ってテ誘ったのカ!?」
「おうよ」
「ナッ・・!」
「俺のタネじゃ妊娠しねぇから安心しな。ま、よそで作って、2、3回堕ろした方が、締まりがよくなるっていうから、別にそれでもいいけどよ」
「テ・・テめぇッ!」
カッとしたらしいリン君が、踊りかかるようにエンヴィーに掴みかかり、僕は突然、目の前で勃発した夫婦喧嘩を前に、モップ片手にポカンと立ち尽くすことしかできなかった。幸いというべきか否か、乱闘ができるほど体調が戻っていなかったリン君はすぐにヘナヘナと崩れ折れてしまい、あっさりと嘲笑うエンヴィーに抱え上げられ、ベッドに放り返されてしまったのだが。
面白半分の好奇心と軽い出来心で一線を踏み越えてしまったことへの後悔と、身体が戻れないことへの絶望感で・・なのだろう、リン君はベッドの上で膝を抱え、ひどく暗い顔をしていた。
エンヴィーに組み敷かれて受けた恥辱や己の嬌態が走馬灯のように脳裏を駆け巡っているのか、視線は不安定に宙に浮いたままだ。
僕が、朝食兼昼食用にと調達してきたソーセージも、物憂げに首を振って、要らないという。その隣でもりもり食べるのはかなり気が引けたが、男の身体は女のそれに比べると燃費が悪いのか、やけに腹が減ってたまらない僕は、遠慮しながらもボイルしたそれを何本も喰らっていた。
「この国に留まってたら・・危ないね。リン君の祖国に帰るかい? 国境までだったら、用心棒兼ねて送ってあげるけど」
「帰ってモ・・だめダ、女の身体ジャ・・皇帝になれナイ」
「ああ、そうだっけか・・」
リン君は遙か東方にある大国の皇子で、皇位継承争いの切り札を探しに、砂漠を越えてアメストリス国まで来たのだと聞いている。
「ハイデ君、ヨかったネ・・アル君とヤってなくて」
「なにせ、アル君はヤる気満々でしたからねぇ・・危ういところでした」
「俺も、スるんジャなかっタ」
もう何十回めになるか分からない、その繰言と共に、リン君は糸が切れたようにハーァと悩ましい溜息をつき・・やがてまた、張り詰めた表情で黙り込む。だが、悩んでいても解決するような問題ではないのだ。
「それでも元に戻れる方法が無いか・・また探しましょうよ。今度は、アル君にも協力してもらって・・あり得ないことはあり得ない・・んでしょう? 必ず、解決策があるはずですから」
「そうかナァ・・そうダトいいんだケド」
「じゃあ・・僕、そろそろ戻りますね。ソーセージ、まだここにありますから、お腹すいたら食べてね? 冷えても美味しいんですから。食べないと、身体が保ちませんよ?」
ここで、ただ徒らに時間を潰していても、何の意味もない。リン君を慰めてやりたいという気持ちはもちろんあるが・・結局のところは、後ろ髪を引かれる思いをしながらも、僕はねぐらに帰るしかなかった。
「ハイデさん! おっぱいは!? おっぱい、どーしたの!?」
帰宅するなり、僕を出迎えたアル君がいきなり口走った台詞が、それだった。お帰りなさいでもなければ、遅かったねでもなく、おっぱいどうしたの、ですか・・僕は思わず、脱力しそうになる。
「おっぱいは・・重たくて肩が凝るので、バイバイしました」
「えええええっ! おっぱい! おっぱい! ボク、まだハイデさんの巨乳、揉んでないのにーっ!」
「揉んでないとおっしゃっても・・ガムテープ巻く時に、触ったでしょう、多少は」
「あんなんじゃ、やだやだー! おっぱい! おっぱい! 生おっぱい! あんだけおっきかったら、色々したいことあったのにーっ!」
「あのー・・元の体に戻った事を喜んでくださいよ、お願いですから」
「だぁってぇええ! おっぱい! おっぱい!」
左手を豪快に振りながら、じったんばったんと暴れるアル君が騒がしかったのか、ちび君もひょっこりと顔を出した。今日のちび君は肌も露わなシースルーのドレスを着ている。またそんな扇情的な服を着て・・襲われても知りませんよと、小言のひとつも言いたいところだったが、これまた「でもこれ、昼間は涼しくていいんですよ!」と元気よくお返事をされたら、返す言葉もないのであえて黙っておいた。
「あー・・おとーさんのおっぱい、へこんじゃった?」
とりあえず、ちび君の第一声もさりげなく『おっぱい』だったというのは・・えーと、僕はどう反応したらいいんだろう・・ついに完全脱力して、がっくりと手をついてしまった僕を、ちびは不思議そうに見下ろしていた。
それからしばらくの間、不法入国者の報せがなく、狩りに出ることもなかったせいもあって、リン君と連絡を取ることはなかった。
リン君の女体化を元に戻すための研究もしなくてはいけないな・・ということは一応頭にあって『その薬が完成したら、えっちをしても元に戻れるわけで・・それだったら、もう一度、薬を飲んであげてもいいよ』と、アル君をそそのかして、手伝わせることにしたのだが、実際には日々の忙しさに取り紛れてしまい、研究は遅々として進まなかった。
そんな頃、サン・ルイ通りの一角で、食料品を探しているらしいリン君の姿を見かけた。
黄色い刺繍入りの上着をはだけていたので、まさか元に戻ったのかと一瞬思ったが、実際には、膨らんだ乳房を固くサラシで巻いてあるだけだった。
「リン君!」
「アー・・ハイデ君、お久し振リ」
振り返り、笑顔で手を振るリン君は、すっかり元気そうだった。
「あの・・そーいえば、薬の研究、進んでなくって・・ゴメンね? その、大変じゃない? 色々と」
「あン? 薬? アー・・このカラダの?」
一瞬きょとんとしたリン君の表情に、僕は驚いてしまう。
あれだけ深刻な顔をして、元に戻れないと嘆いていたのに、この妙に明るい表情は何なのだろう?
「あー・・って・・だって、そのままじゃ・・」
「ソッカ、まだケンキューしてくれテたのカ・・もーいいヨ。気にしてないシ」
「へっ? じゃあ・・皇帝になるのは諦めたの?」
「諦めてネーヨ」
「でも、女じゃ即位できないって・・」
リン君の細い目が、さらにスッと細くなった。いつもと変わらぬ笑顔のままであるが、なぜか背筋がゾクリとする。その状態で、数秒の沈黙があった。その間に、リン君の内心でどんな葛藤があったのか、そしてそれをどう克服したのかは、外面からは図り知ることはできない。
リン君は、からりとした声で「俺ハ、女帝を目指ス」と明るく宣言してみせた。
「女帝トしテ・・王になる」
ゆっくりと念を押すように繰り返すその口調には、そのことに対するあらゆる疑問も反対も受け付けない、圧倒的なまでの決意に溢れていた。その姿は乙女でありながら雄々しく、さらには神々しくすら、僕には感じられた。
「そっか・・頑張れよ」
「言われなクても、頑張ってルヨ」
「そ・・そうだね。そうだよね」
気圧されて、どう言葉を返していいのか分からずに、数秒見詰めあう形になってしまったときに、僕らの間に、小柄な影が割り込んできた。
「やっほーい! とほり魔・エドワード様の参上だっ! 何しけた面してやがんだ? ご両人! そんなふたりにビッグニュースだ! 不法入国者が貧民街に逃げ込んだようだぜ! ハンターとして名高いあんたらが、こんなところでノンビリ油を売っててイイのかよ?」
金髪の三つ編みを垂らした少年は、一気にそうまくし立てると、再び猛烈な勢いで駆け去っていった。
僕があっちの世界にいた頃に知っていたエドワードさんにそっくりだが、暗く沈みがちだった彼よりもいくらか若くて、豆が弾けるように威勢が良い。
一瞬、僕とリン君はあっけに取られていたが、やがて顔を見合わせて噴き出し、どちらともなく「じゃ、行くか」ということになった。
「武器、何持ってルノ?」
「ちびが少しでも強くなるようにと、最近、憲兵司令部内の中庭で訓練してるんで、今は素手なんですよね。ほら、本気で相手したら、ダウンさせちゃうから・・ちびには武器を持たせているんで、こっちは傷だらけですけど」
「ハイデ君、子煩悩ダネー・・ジャ、ハイデ君、起こス専門?」
「せっかくの狩りで、ただ起こすだけだなんて・・冗談じゃないですよ。たまにはスカッとしたいので、途中でなにか拾います」
「ソーこなくっちゃネ」
二ッと笑いあった僕たちは、何事もなかったかのような足取りで、歩き始めたのだった。
Fine
【後書き】モデルになった攻防戦登録キャラの方々には、前もってご了承頂いた方もいれば、無断で載せた方もいます。ご無礼をお詫び申し上げるとともに、少しでも楽しんでいただけたら良いなと思っております。このたびは、本当にありがとうございました。
リン君:リン@利奈さん(稲葉モノ子さん)
アル君:アル@紫さん(子安侑美香さん)
ちび君:ハイデ@Rinさん(凛さん)
エンヴィーさん:エンヴィー@屍さん(屍姫さん)
エドワードさん:エド@とほさん
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