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ふたりでおるすばん☆長過ぎる後日譚



しばらくそのまま動けず、お互いがお互いにしがみついたまま、無言だった。ただ、荒い息と高い鼓動と・・素肌を通じて通い合う体温だけが、世界の全てになっていた。

ふと、リンが先に我に返り、一回り大きい自分が、エドの小さな身体に乗りかかっていることに気付いた。
「・・悪ィ、重たいダロ・・シャワー・・浴びなきゃダナ・・腹も減っタシ」とつぶやき、身体をどかそうとして、くらっと軽いめまいを感じて、よろける。
エドがそんなリンを支えるようにして、抱きとめた。

「ん・・・いいよ、もうちょっと、こうしてようぜ?」

「ン・・そダナ。ちょっと疲れタ・・」

リンがエドの隣に横たわり、ふと手首を見て「縛ったノ、痕ついちゃっタな・・悪イ。ゴメンナ」とつぶやく。

「正直、動けねぇよ・・イキすぎ・・ああ、痕? いいよ、んなもん。まあオマエがあんなことするとは、思わなかったけどな」

「ついついカッとしちまっテサ・・嫌ならもうしねェケド・・なんだヨ、ニヤニヤして。それともエドは、あーいうプレイが好きなのカ?」

「べ、別に好きとか言ってねぇだろ! なぁ・・そんなことよりさ・・」

エドがふと、何を思ったのか、一転してしなっとリンにすがる。
リンはエドが何を言いたいのか見当がつかず、エドを見つめて、言葉を捜すように黙り込んでしまった。なにげなく、エドのほどいた金髪を指に巻き付けて、弄ぶ。ふと、返事を待たれていることに気付いて、気まずそうに「・・ナニ?」と尋ねた。

「ん・・今度はさあ・・リンがちゃんと男の時に・・な・・ヤろうぜ?」

そう囁くエドは、髪をいじるリンの手の動きが心地良さそうに、目を細めていた。

「エ?・・アア、そうダナ・・何かヘンだヨナァ・・男と女ナンだかラ、こっちの方ガ自然なんだケド・・不自然ナンだよナ・・俺もエド、抱きたいヨ」

エドの言葉に、リンは今さらのように自分が男だったことを思い出して苦笑し、忘れていたことを誤魔化すかのように、エドのおでこに軽くキスしてやった。なんなんだよ、今の俺は女になってて、エドは男で・・でも、こんなにエドが可愛いって、どーいうことだよ、畜生。

「だって、男の時がやっぱホントのリンだろ? だから・・な。まあこれも悪くないけどさ」

エドが“これ”と言いながら、リンに抱きつくと、その巨乳に頬ずりする。リンは呆れながらも、もう振り払ったりすることもなく、ただ慈しむようにエドの頭を撫でただけだった。

「チェ、ドジったよなぁ、今日は・・どーせ女になるンなら、エドが女のほーが、ゼッタイいいのにサ。それだったラ、俺、エドをシン国に連れて帰って嫁にスル。エドがイヤって言っても、連れて帰るのにサ」

「なぁに言ってんだよ、薬ってずっと効果続く訳じゃねえじゃん・・でもオレ、リンの嫁ならなってやってもいいぜ?」

そう減らず口を叩きながらも、嬉しそうに胸と戯れ、くすくすと笑みをこぼす。

「ま、でもそんな事より、次・・約束、な?」

エドが、上体を少し起こして、リンの目を覗き込む。

「ああ、約束スル。俺ハ、約束ハ絶対守るカラ・・ナ」

そう答えて、エドの目を見つめ返す。内心では(ソッカァ・・エドって、俺の嫁ニなってくれる気あるんダ)などという思いがぐるぐると駆け巡っていた。
口先だけでも、嘘でも、実現不可能なことだと分かってはいても・・そんなことを言ってくれる気持ちは、嬉しい・・そう思っていたら、思いがけず、泣きそうになってしまった。

そんなリンの内心など知らないエドは「ん・・約束だぜ?」などと言いながら、キスをねだるように顔を寄せて、ふと気付き「なんかオマエ、目ぇ潤んでない?」と、ツッコミを入れる。

「・・なっ、なんでもネェヨ!」

リンは慌てて顔を背けるが、ふと思いついたように、ちょっと乱暴にエドの顎を捕らえるとキスした・・こうしていたら目を見られないと考えたのだ。そして、わざと明るい声で「・・ナンダヨ、泣いてるとでも思ったノカ?」と吐き捨てる。

「べ、別にそんなんじゃねぇけどさ・・」

エドは、自分からキスをねだったくせに、思いがけないリンの乱暴な仕草に一瞬驚き、そしてその仕種を情熱の現れと解釈して、頬を染めて照れた。

「そんなンじゃナイんナラ・・ナニ?」

リンはわざとつっけんどんに言い放ち、エドに気付かれないように拳で目尻を拭った。そして、話を逸らそうと、ふと外を見て「アー・・外、すっかり暗くなっちマッタナァ」とつぶやく。

「・・今晩ハ泊まローカナ? さすがニ、これ以上ハ、えっちできネーだろーケドナ」

「だから別になんでもねえったら・・あ、でも泣いてるんだったらオレが慰めてあげてもよかったけど? 何? 泊まってく? えっちは・・もう無理だって、オレ、腰立たねぇよ。もう、泡も出ねぇ」

「バァカ、俺が泣くカヨ。オマエこそ、最中ビービー泣いてタジャンカ。イれてとか、イかせてトカサァ・・えっち、無理ニしなクてもイイヨ。こーしてエドと一緒に居られるダケでもイイんだカラ・・サ、俺。」

「だ、誰がいつ泣いたんだよ! あ、あれはあんな無茶ばっかオマエがするからだろ! ん・・まあ、オレもオマエと一緒に居られたらいいんだけど・・さ」

そして、しばらくの間、ふたり無言になる。
天井を見上げたまま、互いの呼吸の音を聞き・・眠ってしまったのだろうか、と思って気になって、首をねじ曲げて相手を見ると、向こうも同じことを考えていたのか、こちらを向いていた。リンが何気なく、片手をエドの方へパタンと投げるように差し出すと、エドがそれを両手で受け止めて、生身の左手の指を絡めてきた。
触れあう指先から血管が交わり、互いの肉体がそこから融合していくような、奇妙な一体感。まるで、永遠にこのまま繋がっていられるような、そんな錯覚を覚えていた。




「・・ナァ、エド。ドーして錬金術で人間つくっチャいけネーンだろーナ」

ふと、リンがそんなことを口走っていた。ずっと前々から疑問に思っていたこと。

「つくれるンなラサ、俺とエドの子ども作って、シン国に連れて帰れるダロ? オマエはこっちデ色々あって、連れていけなイの分かってルカラ・・せめてサ、こういうノ忘れ形見ってイウノ?」

だが、エドはそんなリンの感傷を「バァカ、もう会えねぇみたいな言い方すんなよ、生きていればオマエがシンに帰ったって会えるじゃねえか。オレが生きることにねちっこいのは知ってるだろ?」と、笑い飛ばしていた。

「マ、確かにオマエは、靴でも食えルぐらい生きギタネーから、生き延びるワナ・・でも、生きテリャ会えるっテ、世の中そんな単純ジャネーヨ・・イヤ、ソーじゃなくて、オマエとの子どもがデキたらカワイーだろうなッテ、思ったダケダヨ」

「オマエ、そんなに子ども欲しいの?」

「子ども? ウン、欲しいナ。誰のでモいいって訳じゃなくテ、エドの子どもが欲しいんだけドネ・・イヤ、もうイインダ。ヘンな話して悪かったナ。ゴメンゴメン」

「なんだよ、なんかすねてねえ? オマエ。オレだって欲しいと思ってるんだぜ? 好きな奴の子どもなら当たり前だろ?」

「すねてなんかネーヨ・・でもサ、エドの場合、自分が子どもみたいダヨ。おっぱいに甘えるノ好きデサ・・だったらサ、ホントーに欲しいんなラ、ツクローとか思わネー?」

リンは、あり得ないと思いつつ、悪戯っぽく言ってみた。
エドが女だったら良かったのに・・とは、ずっと思っていたこと。
そしてさっき、絶頂に達する瞬間、このままエドの精を受け入れて身籠れるのなら良いのに・・と、一瞬考えていた。さすがに、なけなしの理性が働いて「エドの赤ちゃんが欲しい」と口に出して言うことはできなかったけれど。

だが、エドは案外真面目な顔で「作るか? オマエが産む?」などと答え、さらにリンの顔色をうかがうような目つきになって「それともオレが素女丹飲んでもいいけど?」などと畳み掛ける。

「ダカラァ、素女丹の効果はズット続くわけじゃねーカラ、子どもは産めないッテ・・それハ一応、分かってンダヨ。そりゃア、エドが産んでくれタラ嬉しイシ・・」

リンは、そこで言葉を区切ると、声をひそめて「・・オンナになったエドってのも、イッペン抱いてみたいケドサ」と囁いて、クスッと笑った。

「そりゃ・・そうかも知れないけどさあ・・なんかあんまりオマエが欲しい欲しいって言うから、なんかそんな気になっちまったじゃねえか・・あ、でもオレも飲んだらこんな巨乳になるのかなあ?」

「それは、実際ニ飲んでミネーとワカンネーヨ・・ジャ、飲むこと決定ダナ。でも、俺ハ手の平サイズの方が好きダカラ、デカクなくてもイーヨ。大体オマエってば・・」

上機嫌で喋っていたリンだったが、思わず「ちびっこいんだからサ」と滑りかけて、慌てて言葉を飲み込んだ。エドは、リンが何かを言いかけてやめたことに不穏な空気を感じ取って「あ? オマエ今、ナニ言いかけたんだよ?」と睨む。

「ブェェエエエつにィ?」

「・・まあいいや、別にオマエの好みに合わせたいとか思ってる訳じゃねーや。オレが巨乳になっても驚くんじゃねーぞ?」

「ハイハイ、エドが巨乳デモ驚かネェ、驚かネェヨ。巨乳デモ貧乳デモ、エドの乳はアリガタぁく、揉ませテ頂きマス」

エドが素女丹を飲んでくれるという嬉しい申し出に、リンはすっかり舞い上がり、エドの女体に思いを馳せてニヤニヤが止まらなくなっていた。エドが「まだ女になってねえよ! このすけべ!!」と喚いて、リンの頬をむにっと掴んでも「痛いイタイ! モウ、ヒドイナァ」と言いながら、笑っている。

「・・ダッテ、スンゲー楽しみダモン。エドのおっぱい・・ちったァ育つようニ、今から揉んでおいてヤローカ?」

などと言って、エドの平たい胸に手を載せて、指を滑らせる。

「うわ、バカ、まだ飲んでねえよ!! いじるんじゃねえってば、あ・・ン、ヤメロって!」

「イヤ、飲んでなくテモ、男デモ女デモ、エドだったらイーンダヨ、俺・・なぁ、ジャア、今度イツ会えル?」

「今度いつなんて言わずに、いつでも会いたいけどな・・つか、やっぱあれ飲んじまうか」

エドが起き上がると、リンが制止する間もなく、鞄の中から小さなひょうたんを取り出していた。さっき、リンがクリームを捜していたときに、チラリと見えたのだ。あれって確か・・そう思って、おもむろに栓を抜き、一口煽った。
甘いような、苦いような、変な味。そして、身体の芯が熱くなって、くらっと目の前が暗くなり・・








「ア、オイ・・コラコラ・・! 何シてんダヨ!」

慌てたリンに肩を揺さぶられた時には、既にエドの身体は女性に変化していた。

「・・アーア・・オマエって、ホント考えなしダヨナ。ドーセなら、俺ガ男に戻ってカラにしろヨ」

驚いたように見下ろしているが、リンもしっかり見るところは見ていたりする。口に出しこそしないが、ちゃっかり(・・カワイイ乳してんナー)などと、バストをチェックしていた。

「なんだよ、オマエがこういう方がいいかと思ったんだけど?」

エドは、してやったりの笑みを浮かべるが、その後自分の体を見下ろして「・・やっぱオレ、胸ねえなあ・・」と、軽くへこんだ。だが、リンの方はむしろ、巨乳よりもこれぐらいのサイズの方が嬉しい訳で。

「カワイイ、カワイイ! オマエってバ、ホントに俺の好みドンピシャだよナァ・・もう、絶妙なサイズというカ」などと言いながら、思わずエドにかきついて、むにっとわしづかみにしてしまう。

「アーア、バカ、どーして俺が戻るマデ待ってくんねーンダヨォ・・もっぺん飲んだラ戻レルかなァ・・?」

「別にオマエ好みになろうと思って飲んだ訳じゃねえよ、触んな、バカ・・もっかい飲むって? やめとけよ、今度元に戻ったら、オレがまた薬飲んでやるから。なあ・・でもそんなに女のオレとヤりてぇの?」

「チェ、ナンダヨー。さっきの仕返しカヨー・・せっかくのオイシソーなエドを目の前にしテ、お預けカヨー」

エドに上目遣いに見上げられ、リンは、自分が男の身体ではないことが心底、惜しそうに嘆いた。でも、手はしっかりエドの乳を揉んでいたりする。

「デモ、また飲んでくれルんだヨナ? 約束だゾ?・・マァ、エドが相手なら男でも女でもイーンだけドサ・・ナァ、ところで、腹減らなイ?」

「オマエってそればっかだよなあ・・・でも、まあ確かに腹減ったかな・・・って、いつまでも揉んでんじゃねえよ!」

「ドーセ俺ハ、燃費が悪いデスヨ・・エド、食堂まで歩けねーダロ? ルームサービス頼んでイーヨナ? 起きれなかったラ、アーンで食わせてヤルカラ。ア? 胸? あまりニ気持ちイーモンでツイ・・」

ヘラヘラっと笑いながら、ようやくリンはエドの胸から手を離して、内線電話に向かう。

「歩けねえなあ・・オマエがムチャクチャやったから。抱っこして運んで貰うわけにもいかねぇしな・・って、そのルームサービス代、オレのおごり?!」

「ダッテ、金持ちジャン、錬金術師サマはサー・・俺ンとこの財布、ランファンが握ってルシ」

そう言い返しながら、内線電話の隣に置いてあるメニューを覗き込む。

「ナァナァ、このAコース頼んでイイ? 一番高いヤツだけど、ウマソー! イイダロ? カラダで払うカラサ」

「なんでも頼めよ、しょうがねぇなあ、皇子様のくせにビンボーなヤツは。体で払うって?・・どうしようかな・・あ、オレもそのAコースな」

「貧乏言うナ! 国にいたラ、不自由しねーモン。さらに皇帝になれレバ財産、底なしダゼ?」

そういって、いったん会話を打ち切って受話器を取り上げ「Aセット2つネ」とオーダーした。

「デ、何話してタッケ・・ソーだ、カラダで払うっテ。ウン。お好みのプレイがあるナラ、何でもきくヨ?・・ア、そーいえば、メシ来る時に、全裸ハまずいヨナ?」

「そうだな、パンツくらい履けよ。あ、シンではふんどしって言うんだっけか? 好みのプレイってなんだよ、本気で体で払う気かよ、自分がヤりたいだけじゃねえの? とにかく縛ったりするのは、ヤメロよな。あとクリームとかは・・」

「エー? クリーム、気持ちヨサソーで、ノリノリだったジャン。縛るのもダメ? ジャ、目隠しとかハ? ま、ドンナンでもエドをイかせる自信はアルけどネ」

リンはそう言いながら、ごそごそ身支度を始めるが、スボンのウエストの紐を結ぶ段になって「エドォ、これ結んデ」と甘えた声を出してきた。いつもはランファンに結ばせているから、うまく結べないのだ。
エドは呆れ顔で「しょうがねえなあ、ガキかよ、オマエ」と罵りつつ、どこか嬉しそうな表情で紐を結んでやる。

「まったく、アノ時はすげぇ器用なくせに、こんな事も出来ないのかよ。それとな、別にノリノリじゃねえよ、あんなクリーム。でもまあ・・その・・あれで、もっと掻き回されたら気持ちい・・・い、いや、今のナシ!」

「エ? 何? モット中ニ欲しかったっテ? 男の身体デそれナンダカラ、女だったラどんダケ淫乱なんだローネェ、エドは・・ウワァ、スンゲー楽しミ!」

リンは感激して、エドの頭をくしゃくしゃっとかき回し、どさくさ紛れに「ア、シャツのボタンもヨロシク」などと、ちゃっかりお願いしていた。

「ばばば・・馬鹿、誰もそんなこと言ってねぇだろ! 今のナシって言ったじゃねぇか! 誰が・・あんな・・その・・あんま焦らさないんだったら・・ちょっとだけ・・あー、もう! 何言わせるんだよ!!」

エドも、動揺して訳の分からないことを喚きつつ、リンのボタンも留めてやっていたりする。

「・・? 何言ってんだヨ。訳分んネーナ。つまり、もっぺんヤりたいっテコト?・・それにしてモ、甲斐甲斐しいナァ。そんなことしてくれるト、ホントの嫁みたいダナァ」

「何が嫁だよ、オレはオマエの召使いじゃねーっての! ったくもう、服ぐらい一人で着ろ! アレは・・別にいんだよ、ちぇ、オマエがヤりたきゃ、好きにすればいいじゃん・・つかさ・・オレがしたいって言ったら・・シてくれんの?」

「俺はエドがシたいって言えばスルし、イやって言えば絶対にシない・・最初にそう言わなかったッケ? 今回のコレだって、俺、一応エドに聞いてからヤッたヨナ? ・・もしかシテ、エド、イやダッタ?」

「え・・嫌っていうか、その・・そりゃまあ今回のは、オレだってするって言ったんだし・・そ、そ、そんな不安そうな顔するなよ! あーもう!」

いまいち煮え切らないリンを、ぐいっと引き寄せてキスしてやる。

「オマエにされることが嫌なわけないだろ? 最初に言ったじゃん、心はオマエのものだって。また今度・・気持ちよくしてくれよ」

一気に叫ぶように言い放ったエドの勢いに押され、リンはキョトンとするしかない。

「・・ナ、ナンカよく分からないケド、もしかして今、アイのコクハクとかされてんの、俺?」

「あーもう! 何じれったい事言ってるんだよ! この期に及んで、まだオレを焦らす気か?!」

ボタンを留めていた服を掴んで、力いっぱいベッドに押し倒した。いつもなら体格差やウエイトの関係上、そう簡単にはエドごときに組み敷かれないつもりのリンだが、今回ばかりは気が抜けていたせいか、あっさりとされるがままになっていた。

「好きだって! 好きじゃなきゃ、抱かれたり女になったりしねえっての!」

エドがそう喚いて、無理矢理キスをする。リンは、その勢いに飲まれていたが、じわじわとエドの言いたいことを理解したらしく「ナンダヨ、何ヒス起こしてルンダヨ?・・落ち着けヨ」とささやくと、そのままの姿勢で、エドの背に手を回して、ポンポンと叩き「ソッカ・・エドは俺のコト・・好きナンダ。俺もエドのコト、大好きダヨ・・アリガトウ」と続けた。

「このどんかん・・ばかやろお・・」

エドは悪態をつきながらも、そのままリンにおとなしく抱かれていた。
こんだけ思いっきり吐き出しちまったら、もう、恥ずかしくてリンの顔まともに見れねぇよぉ・・と、リンの胸元に額を押し付けて・・でも、そのまま体温を感じていたくて。照れくさくて死にそうだけれども、そのくせ妙に・・嬉しいような・・そこに、ノックの音が不粋に割り込んできた。

「あ、ルームサービス来た? って、オレまだ服着てねえよ!」

「アイヤァ・・!」

リンはエドをのけて起き上がると、扉に向かった。振り向くと、半ばパニックになったエドが、下着と格闘している。

「オイ、エド、ドア開けるゾ? イヤ、慌てて着なくてイイカラ。ドーセ、後デシャワー浴びるンダロ? 布団かぶって隠れてナっテ。開けるゾ?」

かちゃ・・いちゃついていたふたりの声が聞こえていたのか、いないのか、ポーカーフェイスのボーイが蓋付きの銀盆を2つ載せたワゴンを運んできてくれた。




「あーびびった・・リンが服着る世話なんかさせるからだろ! ったく、ボタンくらい自分で留めろよな」

亀の子のようにシーツから首を出したエドが、照れ隠しなのか口汚く罵るが、リンは一向に堪えた様子もなく「エドの場合、手より口の方が動いてた気もスルんだケド・・? キスとか、ネ」などと、切り返す。

「なぁにが手より口だ・・じゃあ食べようぜ、口動かさねえとな。ほら、オレが食べさせてやるよ」

シーツから這い出したエドが、服も着ないまま、ポテトを手づかみにすると「ほら、あーん?」と、リンに差し出してきた。
全裸でそれは挑発カヨ、と思ったリンは「いただきマース。アーン」と、大口を開けて、指ごとくわえてやった。さらに「ンーッ、オイシイヨ」と、言いながら、エドの手首を掴んで、塩のついた指をペロペロと舐め回す。

「ばっ・・ばばば・・ばかっ! 何すんだっ!」

リンの思い掛けない行為に、背中がザワッとしたエドが、思いっきりリンをどついた。
左手だったのは、別に思いやりでもなんでもなく、単に女の身体には右腕の機械鎧が重すぎて、思い通りに振り回せなかったからだ。

「イテーッ・・ボーリョク反対ッ!」

だが、それを受けるリンも女になっていたため、ダメージは大きかったらしい。思いっきり吹っ飛ばされると、殴られた頭を抱えて、ベッドの上にうずくまってしまった。

「おーい、大丈夫かよ?」

「大丈夫じゃネェ。ナンカ、スンゲーめまいするシ、体熱い・・エド、責任とって、嫁入りシロ」

「・・そーゆーしょーもない冗談言ってる間は、全然大丈夫だな」

エドはそういって笑うと、自分の口にもポテトを押し込んだ。





それから2日後。

「エドォ、たっだいまぁ!」

「にーさん、お土産あるよーぅ」

ウッキウキでホテルに帰って来たウィンリィとアルフォンスが見たのは、ベッドの上で唸っているふたりと、呆れ顔で看病しているランファンの姿であった。

「あれっ・・どうしたのよ、エド?」

「なんで、リンまで?」

「素女丹・・熱出ル」

代わって答えたのは、ランファンだ。リンの額に載せたタオルを、枕元に置いた洗面器の水に浸して冷やし、ギュッと絞って再び乗せてやる。その次はエド。

「素女丹?」

「オトコがオンナにナル。細胞、一気にたくさん生まレテ、たくさん死ヌ、薬キレる時、熱出ル。ほっとけバ治るけド、脳、熱に弱いカラ、頭ダケ冷やしてタ」

「ふたりとも?」

「そんなん飲んで、兄さん達、一体何してたのさ?」

「シラナイ」

それは・・ふたりとも答えようがない。
昨日の朝、リンが戻らないために迎えに来て、この事態に驚きつつも体液まみれのシーツを替えてやり、汗だくの服も着替えさせたランファンには、何があったのかなどスッカリお見通しなのだが・・あえて知らないふりをするのは、主人への忠誠心というよりは「若様、フケツ!」といったところだろう。

「じゃあ、エド・・あたしが留守中に頼んでたネックレスの修理は?」

「兄さん、留守の間に解読するって言ってた、レイモンの古文書も?」

「・・ご、ごめん。その・・昨日、丸一日あるからゆっくりできると思ってたら、その・・一昨日の晩からこんな調子でさ。へへへ」

「へへへじゃなーい!」

「ギブアップ、ギブアップ! チェーンソーはやめろ! 俺、ほら、熱あるし、病人だし!」

「んもう、しかたないなぁ・・まぁ、あんまり騒がしくしても悪いし、アル、あたしんとこ泊まる?」

いまいち釈然としない表情のまま、ウィンリィがアルを連れて部屋を出て行く。
やがてランファンも、ずっと寝ずに看病していたために疲れたのだろう、生あくびをかみ殺しながら『熱もだいぶ引いたみたいだし、もう少し横になってたら大丈夫だと思いますので、先に宿に戻ります』と言い残して、出て行った。

取り残されたふたりは、ドアが閉じる音を聞いて、数十秒間、息を殺し・・やがて顔を見合わせると、思わず笑い出していた。
シーツの中で、絡めあった指・・お互いが掌にかいた汗でぐっしょり濡れていた。

「なぁ、これ、バレてたと思う?」

「シラネー!」

「どっきどきしてたんだけど・・いつ突っ込まれるかなーって」

「ソー思うんなラ、放しておけばヨカッタのに!」

「だぁって・・リンと手、つないでたかったんだもん!」

「・・でサ、次もヤんの?」

「もちろん!」

さんざんな結果のお留守番・・でも、最高に楽しかった・・エドは、リンの頬にそっと触れると、一昨日から数えて、何百回目になるか分からないキスをした。

FINE

・・・家小田様に感謝します。

【後書き】1を書いた時点では、まだなりメは終了しておらず(小説としてはそこで完結させるつもりでした)、その続きが2と3になります。
2が、もろにエッチのパートで、これが終わった頃にちょうど、ゲーム上の「寿命」が近づいたため、あとは余生が許す限り、いちゃいちゃと会話を続けたのが3(の、途中まで)となります。
今回、思ったこと・・私、エッチのシーンは、朝チュンでもいいです(苦笑)。そんなに詳細に喘ぎ声までつけて描写しなくても、萌えますから、お腹いっぱいですから!
いや、なりメは会話中心なので、どーしてもそういう流れになるのですが・・2のリライトの際、延々100行を越えようかという喘ぎ声を前にして、思わず途方に暮れましたよ(赤面)!

あと「ずいきクリーム」と「素女丹」が唐突に登場したのは、ものの弾みです!
クリームは、ゲーム中でアイテムとして登場したので「これ使ったら面白そう」という話の流れになって・・エドが女になったのは、ゲームアイテムにも性転換の薬があるんですが、張回リンが「寿命も近いんだし男に戻っちゃえー」とやらかしたら、家小田エドも付き合い良く「じゃ、俺は女になるー」と。それを裏の方でも反映させた形ですね。
こういう小道具はなるべくご都合主義的に登場させたくないので、リライトの際には気を使ったつもりなんですが・・いやぁ、やっぱ唐突かな?
エドの足を縛るのに髪留めを使ったり、手を縛るのにズボンとベルトを使ったり、小道具を捜すけど見つけられなかったりしたのも「何故か突然ロープが!」「どういう訳だか、そこにバイブが!」などというありがちな(しかし、ツッコミ所満載の)展開に流れたくなかったからですが・・いや、それでも・・ツッコミどころあり過ぎ(苦笑)。



ともあれ、私の作品ではどうしても「三角関係、報われない恋」ってポジションに置かれてしまって、いまいち不幸なリンでありますが、今回ばかりは砂吐くほど、エドから愛情注がれてます・・良かったねぇリン(←棒読み)。

ちなみに「レイモン」とは、パラケルススよりも古い年代の、実在した錬金術師『レイモン・ルル』・・現実には「ルル」という呼び名の方が有名なのですが、そこは世界が違うということで、ほんのりぼかしてみました。

さてさて「あのふたり、なんか変だな」と思ったウィンリィ・・次回作『おにごっこ』に続きます。
2、3初出:2005年11月17日
誤字訂正など同月18日

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