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素女丹騒動記


イザ寝室に入ると、エドは耳まで赤くなってうつむいてしまったが、リンは長煙管を一口だけ吸って腹をくくった。あのババー、最初ん時って、どうやってたっけな。まず、口でして、騎乗位・・だったかな。

「とりあえズ、ベッド、座っテ」

「・・あ、ああ・・服は?」

「後でイイ」

リンはそのエドの膝の間に立ち、軽くエドの髪を撫でて、キスしてやった。キスなんていつものことなのに、オンナのカラダ相手ということで緊張しているのだろうか、エドの反応は妙にぎくしゃくしていた。そのくせ、勃つもんは勃ってやがるんだから、まったく。
唇をあごから首筋に、胸元にと這わせながら、身をかがめる。エドの両膝の間に膝まづく姿勢になった。見上げると、エドが食い入るように見つめている。わざと唇を舐めて見せつけてやると、表情が揺れた。
口でスんのなんて、いつものことじゃねーか。なにを今さら・・やっぱり女体って違うのかね・・って、服着たまんまなんですけど。
歯と唇で、ズボンのジッパーを下ろし、下着の合わせめをくわえて、かき分ける。ババーだけでなく遊女達も、やすやすとやってのけていた仕草なのだが、いざ自分でやるとなったら結構、難しいものだ。
リンはじれったくなって、口だけでエドの陽根を引っ張り出すのを諦め、手でつかみ出してやった。勢い良く、それがぴょこんと顔を出す。

閉じた唇でそっとなぞりあげてから、おもむろに奥まで飲み込む。エドが思わず、リンの頭を掴んだ。

「ちょ・・いきなり・・ア・・」

リンはそれを聞いて、ぐっとエドのそれの根元を掴んで、口を離した。唾液か先走りの露か・・銀色の雫が唇とそれとの間に一瞬、連なった。

「オイオイ、我慢しろヨ。“接して漏らさず”が基本なんだカラ・・気をダしちまうんじゃなくて、天と地に抜けていくのを、イメージするんダッテ」

「分かってるってば・・理屈では分かってるんだけど、どうしても・・先に一本抜いちゃダメ?」

「ダーメッ」

そして、もう一度くわえ込んだ。リン自身も気が巡るのを感じようとする。
えっと・・女なんだから、いつもと逆回りなんだよな。地から天に抜ける陰の気と、天から地に降りてくる陽の気と・・へその下の丹田・・女の場合は子宮なんだろうか。このあたり? そこが熱を帯び、やがて溢れ出していくのが感じられた。
リンの舌が翻るたびに、エドが女のようなか細い声をあげながら、全身をビクビクと震えさせていた。やっぱ、刺激が強すぎて、なにも考えられない状態なのだろうか・・仕方ないな。先に一回だけ、イかすか・・口の粘膜全体でなぞりあげるように吸い上げて煽り立て、軽く歯をたてる。

「やっ・・だめ、リン、出る・・」

「・・イイヨ」

エドがリンの肩に指を食い込ませた。うめくような声をあげて、果てる。

「・・ニガ・・」

袖で飲み切れなかったものを拭こうとして・・その上着がランファンからの借り物だったことを思い出し、自分の腹帯を解いて、それで拭った。

「すっきりシタ? これで少しはモノ考えられるよーにナッタ?」

「・・多少・・」

「上等ダ。今度はちゃんと我慢しろヨ」

リンの頬も上気してきた。身体を起こしてエドの肩を押して、ベッドに横たわるよう促してやり、その上に覆いかぶさるように、自分もベッドに乗り上げた。エドのシャツをズボンから引き抜くと、リンの意図を察したらしく、エドが組み敷かれながらもリンの服をはぎとり始める。

「・・女性上位ですんの?」

「後で、ちゃんと上にさせてやるから、マァ待ちなサイ」

上着をめくって乳房が露わになると、エドが「たまんねーなぁ・・」と呟いて、下から吸い付いてきた。ザワッとした感触が全身を走って、リンの身体がビクンと跳ねる。

「ヤメッ・・」

「感じる?」

「・・バカッ、くすぐってーんダヨ!」

「でも、これ、すんげーやらかくて、気持ちいい・・」

「モシモーシ? 話きーてマス? 真面目にヤる気ねーんなら、やめるヨ」

エドが不承不承、くわえた乳首を離した。それでも未練がましく、手を伸ばして乳房に触ろうとする。まぁ、女性の胸なんて、見るのも触るのも、赤んぼの頃以来だろーしなぁ・・と、リンは苦笑した。
リンは片手をエドの股間に伸ばし、それの硬度を確かめる。若いせいか、バストを見て興奮しているせいか、一度達した後だとは思えないほどだった。
・・すぐ入れられそう。あとは、自分の側のコンディション・・か。

エドに触らせるつもりはなかった。女性器はグロテスクで・・イヤほんと、アレは“初心者”は慣れるまでマトモに見るもんじゃないね。
それに、乱暴にいじられるかもしれないと思うとこわくて、とても身を任せる気にはなれない。
いつものようにリンがリードする形で、エドの首筋や胸元にキスしてやる。エドの両手が、もどかしそうにリンの髪や背中を這い回った。
そのすきに、自分の指で自分の腿の間を探る。よく知っている形だが、それが自分についているというのが、ヘンな感じだ。ぴたりと閉じた部分を撫でて、とろかすように広げていく・・いや、広げられていく感触。その指の動きに導かれるように、熱い体液がトロリと垂れてくる。内側からじわじわとしびれるような快楽がこみ上げてきて、つい、エドへの愛撫がおざなりになってしまっていた。

「えー? リン、自分でしてんの? マジで? ずるい、させてよ」

「ヤなこった・・」

「いいじゃん、させてって・・触らせてってば・・あ、すげぇ濡れてんだ。足に垂れてんの、そうだろ?」

なんとか指が入る程度には慣れた。ちょっと早い気もするが、エドのがっつき方を見ていると、これ以上ほぐしている余裕はくれなさそうだった。
エドが手を伸ばしてくるのを払って上体を起こすと、入り口に押し当てて腰を下ろす。さすがにリンも声が出た。一気に奥まで押し込むと、うつむいて動けなくなる。



痛い・・これで動けってかよ、無理っ。
かといって、エドに動いてもらうのも、壊されそう。



「あーっ、アレ、言ってみたかったのに!」

「ナニ?」

どーせロクなことじゃなかろうが、少しでも痛みから気をそらして、楽になればと思って、つきあってやる。

「“入れて”ってねだるのを、“ちゃんとお願いしてみろ”ってゆーやつ」

ホラ、ロクなことじゃない。こっちは受け入れた感触に必死で耐えているというのに・・エドのおバカな願望に脱力しそうになる。

「そーゆーショーもない言葉を教えんのは、あの中年カ」

「だって、いちいち言わせようとするんだぜ。頭にくる」

「・・あいつ、ホントーにオヤジだな。で、その頭にくるヤツをオレに言わせヨーとしたワケネ」

「いつも楽しそーだから、どんなもんかなーって思って」

「バーカ・・」

ダメだ、体を起こしていられない。ついに、エドの胸に崩折れてしまう。エドはそこで初めて、リンの状態に気付いたらしく「・・大丈夫?」と尋ねてきた。

「・・痛いの?」

「アァ・・それと、ヘンな感じ・・オレも教えるどころじゃなくなりソー・・」



ヤンフィねーさん、ババーなんて呼んでてごめんなさい。貴女は偉大な教育者でした・・こんなんしながら、ベラベラと陰陽道や補導について講義するなんて、俺にはとても無理っす。
俺、皇帝になれたら、ねーさんに孝行するよ。後宮に迎えて、三食昼寝つきの楽な生活させます。



「ゴメン・・ちょっと、今日はヤメヨー・・この身体じゃ、うまくイカネー」

「えーっ? せっかくここまでしておいて、今さらやめるなんてアリかよ!」

エドの方は、いよいよこれから、というところなのだ。それに・・リンは自覚しているのかどうか分からないが、荒い呼吸をするたびに、熱い肉がわなないて、エドを締め付けている。こんな状態で放り出されたら、生殺しもいいところだ。

「じゃあさ、房中術の講義は今度っつーことで、フツーにしよ? それだったらいいだろ?」

返事を聞く前に、エドは強引に右手の力で上体を起こすと、リンの身体を転がすように仰向けにさせて体勢を入れ替えた。白いシーツにリンの黒髪が乱れて広がるのを見下ろす。

「ヤダ・・この身体、まずいっテ・・」

「何がまずいんだよ?」

そっと・・やがて、衝動のままに突き上げていた。その動きに合わせて乳房が揺れるのを、両手で包む。リンが何度もエドの胸板を叩いて「ちょ・・タンマ、やめ・・これ以上、ムリ・・」と訴えたが、止められそうになかった。

「ムリって・・痛いのかよ?」

「痛いのはだいぶ慣れたケド・・つーか・・オカシイ、この身体、絶対オカシイって・・」

顔をそむけて表情を隠そうとするのを、エドがあごを捉えて強引にこっちを向かせる。

「なに? 泣いてんの? 俺とするの、そんなにイヤなん?」

「・・ヤじゃネーケド・・ヤバイ・・オカシクなりソー・・」

こみ上げてくる情動で、自分をコントロールできない。男のように、何か別のコトを考えたら気がそれて抑えられるとか、そういう単純な構造ではなさそうだ。肉体が次々と連鎖反応を起こして、どこか知らないところへ転がっていくような・・始める前に口にしたハッパの効能? いや、一口吸ったぐらいで効くわけがない。

「そっか。やじゃねーんだな。いいよ、おかしくなっても。俺ついてるから・・大丈夫だから」

エドにしては上等な口説き文句だな、大佐の受け売りかもしんねーな・・とは思ったが、リンはもう、意味のある言葉をつむぐことができなくなっていた。エドに揺さぶられるまま、細く高い悲鳴のような嬌声を漏らすだけだ。
自分がそんな声で啼いているという現実を認めたくなくて、己の指を噛んで、声を塞いでしまおうとする。媚びやポーズで噛むのではなく、血がにじんで喰い切らんばかりにあごに力を入れていた。激しい痛みで目が醒め、混濁し遠のきかけた意識がぼんやりと戻ってくる。

「リン・・」




呼ばないでほしい。呼び掛けないでほしい。こんなの、自分だと思いたくない。




「好きだよ」

そして・・自分のものだと認めたくない偽りの身体の奥に、熱いものが迸って満ちていく。
好きって、マスタング大佐より? いや「好き」なのは、この女体が、ってトコだろーな。

身体の芯はまだ熱いが、気持ちはかえって醒めてしまった。全身に水でも浴びたように、さっきまでの狂おしい劣情が色褪せていく。
果てたエドが力尽きて倒れ伏しているのをいいことに、さっさと起き上がった。

「・・リンは、イッた?」

「あ? ああ、まあ・・良かっタヨ」

自分がイったのかどうか、それがどういう状態なのか、イマイチよく自覚できなかったが、ここはあえて、イッたと答えてあげるのが“男の友情”だろう。イかせられなかっただの、ヘタくそだの罵られて、トラウマになってもかわいそうだ。

「おい、どこに行くんだ?」

「湯あみでもしてクル・・血と、アレ・・べたべたシテ、気持ちワリー・・」

「・・血? 怪我でもしたんか?」

「処女膜・・」

「えっ?」

「知ってるカ? 処女膜があるノって、人間とモグラだけなんだっテヨ」

確かに、リンの白い太股には、緋色と白濁の粘液が泡を立てて混ざり合いながら垂れ、ベッタリと広がっている。男としては相当経験を積んでいるリンが、今さら処女喪失なんてのもおかしな話だが、女としての肉体はそうなのだから、仕方ない。

「げっ・・ごめん」

エドがその痛々しい血の色にひるんで、それ以上言えなくなっている間に、リンは部屋を出た。
外では、ランファンが不安そうにバスタオルを持って控えており、まず全身を包んでくれた。



『リン様・・大丈夫?』

すっぽりと包んだ状態で、その上から抱き締めて、背中をポンポンと叩く。
それが合図になったかのように、リンは糸が切れたようにランファンにかきついて、ワッと泣き出してしまった。
だから・・そんな悪戯しないで、クスリが切れるまで、おとなしくなさっていれば良かったのに。

『湯あみなさって、着替えたら・・“女同士”で寝ましょうか? おひとりでは眠れないでしょう』

『・・そうする』

『あっ、リン様、指・・! ひどい血ですよ、どうしたんです? 噛みつかれたんですか? これもお手当しなくちゃ!』






つい、眠ってしまったらしい。目が覚めて隣にリンがいないので、エドは途惑って・・起き上がって服を着ると、寝室を出た。リンを探すつもりだったのだが、すぐに見つかった。ランファンとふたり、折り重なるようにソファで眠っていたのだ。小柄なランファンが、一回り以上大きな身体のリンを包み込んで守るように、腕枕をしてやっている。

「俺んとこで眠ったら、また襲われるとでも思ったんかなぁ・・」

そりゃ後半は確かに、イヤがるのを強引に続けてしまったかもしれないけど・・最初は一応、合意の上だったんだけどなぁ。
ランファンの襟元に顔を埋めているのでリンの寝顔は見れないが、代わりにスッと伸びたうなじが白く目につく。

起こしたいような、起こしたくないような。

うっとり眺めていると、不意にランファンの目がカッと開き、腕が大きく振れた。ビュッと風を切って苦無が頬をかすめ、壁に突き刺さる。

「何の用ダ・・答えによってハ、次は当てルゾ」

とても寝起きとは思えない動きだ。まだ眠ったままのリンを左胸に抱いたまま、なおも右手に苦無を構えている。多分、ランファンは昨日の資料室の時から、相当エドに腹を立てているに違いない。殺気すら漂わせるその姿は、我が子を庇う母猫を連想させた。

「あ・・その・・えっと・・昨日のこと、謝ろうと思って」

「まだ眠っていらっしゃルから、後にシロ」

「ああ・・そうするよ。リンが起きたら教えて。待ってるからさ」

ランファンはフンと鼻を鳴らす。エドはシュンとして、部屋に戻った。
そろそろ自分の宿に戻らないと、アルフォンスが心配して・・どっちの何を心配しているのか最近ちと疑問だが・・迎えに来るかもしれない。だが、このまま帰ってしまったら、この先、ふたりの間にわだかまりが残ってしまうだろうことも、分かっていた。 朝陽の下であらためて見ると、寝乱れた白いシーツには乾いた茶色い血の染みが点々とついていて、エドの罪悪感を刺激する。



・・俺、リンにひどいことばっかりしてるよな。



今度こそ、絶対に嫌われたに違いない。昨夜、せっかく「好きだよ」って言ったのに・・多分、初めて言ったはず・・それなのに、何も答えてくれなかったし。
そりゃそーだ。好きなわきゃねーよな。イヤだって言ってるのに無理矢理あんなことされて、こんなに血だらけになって、好きだよなんて・・ムシが良すぎるよな。


エドがそうやって悶々としていると、やがてドアが開いた。リンかと思って立ち上がったが、そこに居たのは仏頂面のランファンだった。

「迎えが来たから、帰レ」

「迎えって・・アルフォンスが? リンは?」

「出掛けタ」

「起きたら教えてくれって、頼んだじゃねーか!」

「貴様の命令など聞く義務ハ無イ」

「・・謝りたかったのに」

「不要ダ」

謝ったりなんかしたら、リン様はまた、エドのことを許してしまうのだろう。だから、謝ってなんかほしくない。リン様が目を覚ました時、エドはとうに帰ったとウソをついてやった。
リン様は『黙って帰るなんて・・』と、軽くショックを受けたようだったが『ま、気まずいんだろうな。俺も散歩でもして、気分転換してくる』と言って・・

そして、そのランファンの背後から、大きな鎧兜が現れる。

「何? 兄さん、リンに謝らなきゃいけないよーな悪いことしたの!? どうして毎度毎度、そーやってリンをいじめるのさ!」

エドはため息をついて、天を仰ぐ。
せめてすがるような気持ちで「なぁ、リン、俺のこと何か言ってなかった?」とランファンに尋ねてみたが「ベツニ」という、素っけない返事が返ってきただけだった。




声をかけられて、リンはキョトンとした。

『アレ、お前、帰ってなかったのか』

『せっかく来たから、ちょっと観光でもと思って・・』

そこには、レイが屋台で買ったらしい串焼きの肉などをかじっていた。荷物を持っていないところをみると、どこかに宿でも借りたようだ。泊まっていけば良かったのに・・と反射的に思う。
レイが泊まっていたら、昨夜どうなっていたかは分からないが・・レイとエドで“三すくみ状態”にでもなってくれたら、貞操を守れたかもしれないが、このろくでもない弟のことだから3Pしようなどと言い出した可能性もある。
うーん、ということは、やっぱりよそに泊まってもらって正解だったのだろうか。

『ところで兄貴、まだそのカラダ?』

『まだって・・実際のとこ、どれぐらいで効き目が切れるんだ?』

『さぁ、あと数時間か、数日か、数年か・・』

『マジかよ!』

レイはニヤッと笑いながら・・神経を逆撫でする笑い方だ。同じ顔をしているが、俺はこんなヤな笑い方はしないぞ、するもんか・・肉を飲み込むと、串を道端に放り捨てて、タレと肉汁で濡れた指をなめた。

『まぁ、元に戻れねーようなら、僕が代わって即位してやるよ』

『ますます悪いわっ! もしかして貴様、俺をハメたのか!?』

『まさか。ドラッグと、他に面白いクスリがあったら欲しいって頼んだの、兄貴だろ?』

『だからって・・』

『それにしても、キレーに化けるもんだねぇ。このクスリの実験例を何体か見たけど、そそられるほどキレイってのは初めてだな・・兄貴、昨日は邪魔が入っちまったけどさ、そのクスリの成果ってのを、ちゃんと確認させてもらうよ。ファーダ爺が、クスリを分けてくれるときの条件だったんだ』

不意に、路地に引っ張り込まれる。奥が行き止まりで、迫りあう土壁は両手を広げ切れないほど狭く、薄暗い。

『何すんだ、よさんか、ばかっ!』

リンは、とっさにレイの股間を蹴り上げようとして・・そこで思わず足が止まってしまったのは、元々が男なだけに「ココを蹴り上げられると半端じゃなく痛いんだよなァ」と、ついつい思ってしまったからだ。
実際にはそんな手加減をしている場合ではなく、宙に浮いたその膝を、レイに捉えられてしまう。

『何? この足。誘ってるの?』

『誰が誘うかっ! 離せ、無礼者!』

その右足を高々と抱え上げられ長衣の裾が割れたところへ、レイが右手を差し入れる。リンの身体がのけぞって、背中が壁にぶつかった。体勢が崩れて転びそうになって、とっさに、突き放したいはずの相手に、逆にしがみついてしまう。

『おやおや・・離して欲しいのか、欲しくないのか、どっちだい?』

レイの指が最奥に届く。ぬるっと入り込み、リンが悲鳴をあげかけた。その口を、レイが・・両手がふさがっているので、唇で封じる。くぐもったうめき声はやがて小さくなり、リンの身体がガクガクと震え始めた。

『あれ・・コレ、最初から破けてた? 違うよね。兄貴は昔から手が早かったけど・・昨日の今日で、もうヤっちゃったってこと? 兄貴ってば、男の愛人までいるわけ?』

『・・やかましい、その手を離せ、変態』

『昨日来てた、あの小っこい金髪の子?』

『おまえに・・関係ねぇ』

口だけは威勢がいいが、実際には弄ばれて膝の力が抜けており、壁とレイにはさまれるようにして、立っているのがやっとの状態だ。

『ここの造り、本当に女そっくりだねぇ。感覚もそう? 比べようもないけど、感じてるのは確かみたいだね。へえ、ちゃんと濡れるんだ。でも、すごく狭い・・指をこれだけ締め付けられるなんて、相当の名器か、単にサイズが小さいだけなのかな。あとは体格がそれらしく変化すれば、完璧だよな。まだ女にしちゃあ背も高すぎるし、全体がごつい感じかも』

『待て・・ってことは、アレは未完成品だったってことか!? そんな危険なモンひとに飲ませたのか!』

『だから、ほぼ完成してるって・・最初の頃の“試作品”は結構、悲惨だったよ。ここがぐちゃぐちゃで、内臓が中からはみ出して来ちまって・・効き目が切れた時には一応、穴はふさがったんだけど、陽根が元に戻らなくて、腐れ落ちちまってさ・・まぁ、人体錬成で、なんとかソコだけは作ったんだけど』

『・・レイ?』

どうしてそんなクスリの研究を・・自分の身体がかき回されて立てる、ぐちゅぐちゅと濡れた音が、リンの思考をかき乱す。だが、ふと思い出した。
皇帝の後継者が未だ決まらないのは、大本命の皇后の一粒種が、皇女だからだ。だからこそ、リンは“賢者の石”を探し出しての一発逆転を狙っているわけで・・まさかとは思うが、皇女が男になれたら? 皇女推進派が、錬丹術師にそのための研究を急がしているとしたら?
・・いや、それだったら、逆に女が男になるクスリを作るだろう。ファーダ爺の単なる娯楽にしては、人体実験までするなんて度が過ぎている。

『・・貴様、何を企んでる?』

『やだなぁ。企んでるなんて・・何回も言うけど、このクスリを持ってきたのは、兄貴のリクエストだからね? ほらほら、そんな顔して・・すんごく色っぽいよ?』

『・・やだ、やめろって・・悪趣味な』

『じゃあ、代わりにランファンとさせてくれる?』

『・・んなことできるかっ!』

『だったら、おとなしくしててね』

執拗に弄られたために、リンがついに立っていられなくなり、ずるずるとへたり込む。レイの指を締め付ける胎内が、異様に熱く感じられた。





『やだ、リン様、倒れてたの? レイさん、届けてくださって、ありがとうございます』

『いえいえ、礼には及びません・・どうも、クスリが切れるときの副作用で、熱が出たみたいで・・』

『リン様の身体が戻られたんですか! 良かった・・』

ランファンの眼中には、露骨なまでにリンしか入っていない。そんなこと、前から分かってはいたが、レイはへこみそうになる。

『もし・・兄貴が元に戻らなかったら、貴女はどうしたと思います?』

ランファンは一瞬キョトンとし・・すぐにニッコリと笑ってみせる。

『それでも、私はリン様をお守りしますわ。女になっても、化け物になっても、どんなお姿になろうとも、それはただの見た目。リン様はリン様ですから、視覚にはこだわりません・・そりゃあ、昨日は突然のことだからちょっと、驚いちゃいましたけど・・ああ、そこに寝かせて差し上げてくださる?』

そして、ランファンは氷を取りに行き・・リンが苦しげな呼吸の下から『やーい、フられた』と、せめてもの意趣返しをした。

『まだそんな減らず口叩けるのかよ。クスリがあそこで切れなかったら、ホントーに犯してやったのに』

『同じ顔に犯られるなんて、ぞっとしないね』

一触即発状態に陥るが、ランファンが戻ってくると、レイの闘志がくじけた。

『じゃあ・・ホントに帰る』

その背中を見送りながら、我が義弟ながら、あいつは要注意人物だなぁ、ホント得体がしれないよなぁ・・と、リンはため息をついたものだ。





その後、リンが熱を出して寝込んでいると聞いたアルフォンスが大騒ぎをしたり、見舞いに行こうとしたエドが、それを妨害しようとするランファンと派手な格闘を繰り広げるハメになり、またもや街を大破させてしまってマスタング大佐に大目玉を食らったりしたらしいが、リンはその間、ひたすら熱にうなされていたので、はっきりとは知らない。

そして熱が引いて、エドが訪ねてきて・・そしてケンカをするのは、後日の話。

FINE
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【後書き】思いつきで書き始めたストーリーなので、ひたすらエッチするだけの話なんですが、タダの女体化じゃなくて、あくまでも「男の子が突然、女になっちゃった」ということを前提に、あんまり女性っぽくならないように書いてみました。
ちなみにこの話、リンとランファンのふたりで眠るシーンでレズ入れたり、後半のレイに襲われるシーンをくだくだ書いたりしたら、男性向けアダルトになるよなーとか思いながらも、思うだけに留めておきました。

ちなみに、レイは6年後のお話「応竜」に登場するキャラとして創作したもの。即位したリンの影武者を務めることになるんですが、まぁ、食えないヤツです。「応竜」ではシリアスなのですが、こっちの話では、ただのエロガキになってしまいました(爆)。

なお、レイの漢字表記は「黎」、ヤンフィは「楊回」、ファーダは「華陀」です。華陀と聞いてピピッと来た方は、三国志マニアですね(苦笑)。
初出:2005年4月21日
誤字訂正:4月25日
一部改訂:4月28日

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