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『篭の鳥』続編・夜明けの晩に


【警告】
当作品は、2005年10月末から11月中旬にかけて構想、執筆されたものです。原作(月刊少年ガンガン)は、05年12月号までしか反映されておりません(06年1月号発売以降も、それに伴う改定は行いません)。
執筆時点で「多分、あり得ないだろうな」と思われる時間軸、設定の上に成りなっているストーリーであり、多分にパラレル要素を含んでいることを、予めご了承のうえ、お楽しみください。

具体的に言うと、エドとリン、エンヴィーがグラトニーの腹から脱出した後、どういう経緯でかは知りませんが、数日間、平和な日常を送っている・・という仮定でストーリー展開されています。

ええ、多分、こんな展開あり得ませんね。分かってますって。
きっとドトーのようにあのまま北に飛ばされるか、最終決戦に巻き込まれるに違いない・・こんなふうに3人いちゃこらしてる時間的猶予なんて無いってば・・というわけで、当小説はあからさまな捏造&妄想の産物です。それをご理解いただける方のみ、以下、スクロールしてお楽しみください。
















■夜明けの晩に


ちぇ、ちょっと遅れちまったな・・早めに出るつもりだったのに、なんかしらねーけど色々邪魔が入っちまってよ・・ラースやプライドは「どこに行くんだ」ってしつこく聞きやがるし、グラトニーは一緒に行きたいなんつーから、諦めさせるの大変だったし・・あの人質のオッサンまで「妙に楽しそうだが、どこに行くんだ?」なんて言い出して・・楽しいもんか、凶悪な相談しに行くんだからな。レイプの計画立てるんだぞ、レイプの。

先日、糸目のを殺っちまおうと思って、グラトニーの腹の中に飲み込ませたら、ドジって巻き込まれてしまって・・で、出られねぇって諦めてたら、あのド腐れドちびがとんでもねーこと言い出しやがって・・俺の中にある賢者の石を活性化させたら扉が開くって・・で、一応開くは開いたんだけど、そのド腐れがボケッとしてたせいで、脱出に失敗して。
だから、もしあそこを出られたら、ド腐れを絶対イテコマしてやろーと・・本来はいけすかねー・・どころか、敵同士である糸目のな訳だが、この際、目的というか利害関係というか・・そいつが一致したわけで。じゃあ、ふたりしてあのチビをマワしてやろーと。

だから、こいつはデートでもなんでもない。
ただまぁ、地上に出て飯でも食いながら・・ということなので、人目につかないようにフツーの格好をしようと。そう思っただけで。別にだれかに化けても良かったんだけどよ。その、ちょっとした気まぐれで。
フツーにシャツとスラックスを着て、長い髪を軽く束ねて。それだけのことだ。別に特にオシャレしたわけでもなんでもなく。
なんで俺が糸目のと逢うのにオシャレなんかしなきゃいけねーんだ、ばぁか。

待ち合わせをしていたオープンカフェに向かう。もちろん、内容が内容だから、カフェでそのまま計画を練るわけじゃなく、そっから場所を移す予定なんだけど。
・・椅子に腰掛けているヤツの背中が見えた。くくった長い黒髪と黒いコート・・多分、あのときの・・いや、血や泥の汚れはとうに洗い落とされているだろうが・・かなり遠くからでも間違いなく、糸目のだと分かった。
おーいと声をかけて小走りで駆け寄ろうとして、ヤツの膝の上に女が乗っかっているのに気付いた。仮面の従者じゃなく、金髪でちびっこいヤツ。





「すっぽかされたみたいだねぇ」

ケロケロと笑いながら、リンの膝に乗った女が指先で胸をつんつんと突つく。

「ソーみたいダナァ・・もう30分も経つモンナァ・・」

何百年も生きてるヤツにとっては、30分も3時間も3年も大した違いはないのかもしれないが・・今日はオフだという馴染みの女がたまたま通りがかって、こうして遊んでくれているから退屈しないで済んでいるものの、これがひとりでとなると・・デートでもなければ、どっちかといえば嫌いな相手を待つなんて、バカバカしくてやってられなかったに違いない。

「じゃあ、あたしと遊ぼうよ」

「カネねーヨ」

「タダでさせてあげるってば。今日はお休みの日だから」

「エディはホント、商売っケがナイネー・・助かるケド」

「ばかぁ!」

「ちょっと・・お客さん? ご注文は? ここはそーいう店じゃないんですけど」

いちゃついているふたりの会話に割り込んだのは、このカフェに働く巨乳のウェイトレスだ。

「あーらごめん遊ばせ? じゃあランチセット2つね。リンさんも食べるでしょ? 払うよ」

「ソーだな・・待ってたラ腹減ったナ。ブロッシュさンのツケで食うつもリだったンダケド」

「かわいそーに。あんまりたかると破産するよ」

ウェイトレスは、女が堂々と居座って帰ろうとしないのに、内心チッと舌打ちをしながら「ランチセットのドリンクは何にしましょう?」と、営業トークを続けたものだ。





声をかければ済む話だとは分かっていた。

常人よりも遥かに優れたエンヴィーの聴覚では、ふたりの会話を聞き取ることができて・・つまり、リンが自分を待ってて、それまでの場繋ぎで女と戯れているだけなのだと把握することができた。なのに、思わず立ち止まってしまったのは、その女がリンの膝の上に乗って、その胸にもたれかかっていたからで。いや、だからどうしたと言われればそれまでなのだが、どうせ化けモンの自分はそんなことできねーよ、というか。別に、そうしてみたいという訳ではないし・・そして、自分はあのウェイトレスのように、あの女に対して何か言えるような立場でもなく。

ただ、何もそんなことしながら待つことねーだろと、不快になってしまって。
気付いたら、きびすを返していた。
どーせ、俺が行かなくても、糸目のやつ、退屈しねーみたいだし?





くそっ、何考えてやがんだ、俺・・反吐が出る。






「おや、もう帰ってきたのかね」

「じゃーかーしーっ!」

人質のくせにうるっせえんだよ、オッサンが・・喚きながら自室に戻ろうとすると、今度はラースが「騒々しいのは貴様だ。静かにしたまえ」などと高飛車に声をかけてくる。
挙句の果てに、グラトニーが「おんものおみやげはー?」なんてのんきに尋ねてきたので、エンヴィーは脳の血管がブチ切れそうになった。

「んなもんねーっ!」

腕だけ変化させて伸ばし、グラトニーの顔面を鉤爪のある大きな手でわしづかみにすると、そのままの勢いで力いっぱい壁に叩きつけた。顔面がトマトのように潰れ、脳漿が飛び散ったが、それぐらいでは当然死ぬ由もない。
みるみる間に再生すると「いたぁーい。エンヴィーのいじわるぅ」と、よりうっとおしく言い募られる結果となった。

「もっぺん潰されてぇか!」

「やだよぉ。お父様に言いつけてやるぅ・・ね、エンヴィーが怒りっぽいのって、セーリ?」

「んなもんくるかーっ! 訳わからーん! つか、おまえ生理って何か、知ってんのかよ?」

「知らない。でも、ラースがそー言ってた。セーリっておいしい?」

「・・くーえーるーかーっ!」

相手はこんな程度では一向に堪えないヤローだと知りつつも、カッとしたエンヴィーは破壊衝動を抑えきれずに、もっぺんグラトニーの頭を壁に叩きつけて潰していた。

「うあぁぁぁん。プライドぉ、エンヴィーがいじめるぅ」

「うーん・・発情期みたいだから、凶暴になってるのは仕方ないねぇ」

さらにとどめを差すように、にこやかな笑みを浮かべてとんでもないことを言い放つのが、プライドだ。

「だっ・・だぁれが発情期だぁああああ!」

「およし」

グラトニーのまるまっちい巨体を背に庇いながら、青年がおっとりと立ちはだかった。エンヴィーの変化した爪が猛烈な勢いでその顔面を狙い、かろうじてあと数ミリのところで止まる。だが、プライドは眉一筋動かすことなく平然としていた。

「誰を相手にしているつもりだい?」

「ぐっ・・畜生っ」

口惜しさに歯軋りをしながらも、エンヴィーが手を引っ込めた。

「よしよし・・いい子だ」

プライドが喉を震わすようにクククッと低く笑いながら、エンヴィーの頬を撫でた。その、産毛に触れるか触れないかという微妙な感触に思わず虫唾が走ったが、飛びのこうとしても足が床に張り付いたように動けない。

「お外で、よほど気に入ったヤツを見つけたみたいだねぇ・・取り込みたいと思ってるんだろう?」

「そっ・・そんなんじゃねぇよ」

「そうかい? 取り込みたいのでなければ、番いたいとか?」

「だから違うッて!」

「そうだろうねぇ。おまえと番うことができるヤツなんて想像がつかない」

「つが・・そんな言い方すんな!」

「その言い草だと、合成獣の類いではなさそうだね。人間? 人柱にはなれそうかい?」

「そんなんじゃねーよ」

「じゃあ、ただの人間?」

「だっ・・だーかーらーっ!」

エンヴィーが否定すればするだけ、ドツボにハマっているようだ。
プライドはさも面白そうに優美な笑みを浮かべ、エンヴィーは口惜しさに歯ぎしりをする。大きな双眸が鈍く光を孕み、呼吸が心なしか上ずる。震える指先に力がこもって獣の爪へと変化していた。こいつ・・ただじゃおかない。

だが、プライドはその殺気を感じたのか、感じていないのか、唐突に「悪いことじゃないと思うね。我々はただの人間に憧れ、その儚さ脆さに焦がれている」などと、言い出した。意表を突かれて、さすがのエンヴィーもキョトンとする。

「はぁ? なっ・・何を言ってるんだ?」

「醜い出来損ないの怪物が、神の作り賜うた完璧な作品に惹かれないわけがない、と言っているんだ」

「醜い・・って俺のことか」

「おまえだけじゃない。我々全員さ」

「・・俺達は、人間よりも優れた存在だ!」

「ただの化け物だよ」

そこまで言うと、プライドは背後のグラトニーに「もうお帰り」と声をかけ、自身もエンヴィーに背中を向けて歩み去る。

「ああ、そうそう、ふと思い出したんだけどね」

プライドは、振り向きもせずにボソッと言う。それは、エンヴィーに聞かせるというよりも、半ば独白に近かった。

「ラストも、人間相手のデートを任務以上に、楽しんでたと思うよ。今日は花束もらちゃった、とか言ってね」

プライドが廊下を曲がり、視界から消える。
エンヴィーは、ふつふつと名状し難い怒りが沸き上がってくるのを感じ「ち・・ちくしょーっ!」と喚いて、壁に拳を打ち付けていた。







むかつく、むかつく・・なんなんだよ、番うって・・プライドのあの、ひとをバカにしきった態度がむかつくし、その原因になった糸目のにもむかつくし・・それよりも何よりも、そもそも諸悪の根源は、あのド腐れドチビ野郎じゃねーか!

部屋に戻ってもイライラが収まらず、壁や棚に八つ当たりまくるが、手応えなく崩れて床に散らばった残骸を見ても、余計に気分が悪くなるだけだった。

「ちくしょう・・」

腹の奥で煮えくり返っている重苦しい憎悪・・だが、それを吐き出す方法が分からず、胸の辺りでつかえて呼吸を遮った。苦しさのあまりに喉元を掻きむしり、肩で息をしながらへたりこむ。それから・・どれぐらいの時間が経ったのだろう?
だから、その諸悪の根源を懲らしめるための計画を立てに行くつもりだったんじゃねぇか・・俺、なんで帰ってきちまったんだよ。糸目のに・・会わなくちゃ、な。どうやって・・連絡とろう。勝手に押し掛けちまおうか。

ようやく思考がそこまで辿り着くと、なんとか身体を起こすことができた。
呼吸する度に、自分の爪で貫いてしまった喉笛が、ヒューヒューと甲高く鳴っていた。顎から胸まで抉られてズタズタに裂けていたのを修復し、ふと気付くと入り口から合成獣ら数匹とグラトニーが、こわごわこちらをのぞいている。

「・・なんだよ?」

「あ・・あのね、あのね。鎧の人柱がね・・伝言って」

「はぁ?」

「んとね、んとね、明日、同じ場所で同じ時間でって言ってたって言ってた」

「言ってたって言ってた?」

「うん」

「・・おまえ、鎧の人柱と仲いいの?」

「硬くて食べれなさそうだけどね。エンヴィーは糸目と仲いいんでしょ?」

「良く・・なんかねーよ」

「鎧よりはおいしそうだよ。ちょっと骨っぽそうだけど」

「食うなよ」

「なんでー? 食べちゃえって言ってたじゃない」

「そ・・うだったかな? ま、とりあえず、少し待て」

「あーい」

グラトニーの拙い言葉から察するに、糸目のが、鎧を通じてグラトニーに「明日、改めて待ち合わせしよう」と言ってきた・・のだろう。
グラトニーはちゃんと伝言を伝えることができたことに満足したのか、のっしのっしと戻っていき、合成獣らは部屋にまろび入ってきて、床に流れ落ちたエンヴィーの血や肉片を舐めとったり、瓦礫をせっせと運び出したりし始めていた。やがて、部屋の中が殺風景なまでに片付き、エンヴィーはようやく時計を見る余裕を取り戻した。

ああ、あの人質のおっさんに餌やる時間だな・・と、ひとりごちながら、無意識に自分の喉や胸元に手を這わせている。ついさっき自分でつけた傷は・・もう跡形もなかった。






昨日は、変にいつもと違う格好をして出たから、目立っておちょくられるハメになったんだ。
いつも通りでいいじゃねーか、いつも通りで。

だが、それでもめざとく「いってらっしゃーい」とグラトニーに声をかけられてしまった。

「エンヴィー、おんものおみやげー」

「・・何がいいんだ?」

「おいしいの」

「人間でもさらって来いっつーのか?」

「産まれたての、だーいすき! あまくって、やらかくって、おいしいよー」

「・・肉まん買ってきてやっから、それで我慢しろ」

適当にあやして、他のうるさい連中に見つかる前にと、そそくさと地上に出る階段に向かう。







「オー・・今日はちゃんと来たんだナ」

カフェがすぐそこに見える場所に佇んでいたら、そう声をかけられてドキッとした。そろそろ来るだろうから、席の方に・・と思って化けた矢先だったのだ。
見上げると、糸目のがいつもの黒コート姿で立っていた。

昨日も、途中まで来ることは来たんだ・・という台詞が口をついて出そうになって飲み込む。幸い、相手はそれ以上、追求する気も責めるつもりもないようだった。

「せっかくだからお茶でモ・・と思うケド、その格好だとサンディがうるせーだろうナ」

「サンディ?」

「あノ乳牛みたいなウェイトレス」

「・・嫌いなんだ」

「好みじゃネーナ。好かれてるみたいで、たまにマけてくれルケド」

「ひどい言い方だなぁ」

エンヴィーは軽い優越感のようなものを感じながら、わざと少女を擁護してみせる。これが少しでも好意的な事を言われていたら、こうは応対しなかったに違いない。

「じゃあ、こっちの子は?」

自分の胸を指して尋ねた“こっちの子”・・というのは、エンヴィーが化けていた金髪で小柄な少女だった。昨日、リンの膝の上でじゃれついてた娘。

「嫌いじゃネーヨ。馴染みだしナ」

「・・寝たことあんの?」

「客としてネ」

「ああ・・そ。そうなんだ」

「そんなん、ドーデモいいから、どこ行ク? 俺、こっちの街に土地勘ネーからサ。使えそうナ、廃屋かどっか、知らねェ?」

「そ・・れだったら、11区の方だな。開発途中で頓挫して、放棄された廃ビルとか工場跡とかが結構ある再開発地域でさ、しかも区外と違って、まだスラム化してないから、乞食がうろうろしてることもなくて」

「フーン」

エンヴィーが歩き出すと、半歩後を行く形でリンも続いた。








途中でリンが「腹へッタ」などと言うから、通りがけの市場で、大きな紙袋いっぱいにサンドイッチの類いを買い込んで、頬張りながら歩いた。

「今日はオマエ、カネもってたんだ」と、エンヴィーが冷やかせば、リンも「化けモンがフツーに現金持ってるなんテ、あんま想像つかネージャン。化けモンのくせニ、俗っぽいヤツだなー」と切り返す。

「だって、こんなもん、ナンボでも作れるもん」

「アーソッカ。カネと人間作っちゃイケネーってのハ、法律でのお約束ゴトだもんナ。化けモンにゃ関係ネーってカ?」

「化けモン化けモン言うな」

「だってそうジャン・・デ? カネはそーやって簡単ニ作れるのハ分かっタけド・・人間ハ作ったことあんノ?」

「だから、その成果が俺らだって」

「化けモンじゃナク、フツーの人間」

「やな言い方すんな。フツーの人間なんか作ってどーすんだ」

「どーっテ・・欲しいナァというカ、何と言うカ」

リンは曖昧に誤魔化して、口にカツサンドを押し込んだ。その豪快な食いっぷりに圧倒されながら、エンヴィーもご相伴程度にフルーツサンドなんぞをかじる。

「そんなん・・フツーの人間でいいんなら、誰かに産んでもらえよ」

「産めなイ相手なンデ」

「・・誰?」

「誰でもイイジャン、別ニ・・オイ、最後の1個だけド・・オマエ、半分食うカ?」

「えっ? いや、食えよ」

「だってオマエ、1個しか食ってなイジャン」

いらねぇ・・と言う前に、リンが焼そばパンを半分にちぎって、片方を差し出してきた。突き返すのもナンだと思って、素直に受け取る。片手に1個ずつパンを持った状態になり・・フルーツサンドはデザートになるから、焼そばパンを先に食べた方がいいのかな・・とエンヴィーが迷っている間に、リンは自分の分を一口で平らげてしまった。

「・・水もなしで、よく喉詰まらないなぁ、糸目の」

「喉詰まりソウ? ジュースでも買ウ?」

「あ・・そういう意味じゃないって」

エンヴィーがタラタラと自分の分担を食べ終わった頃、ようやく目的の11区に着いた。






「オー・・オアツラエ向きノ廃墟揃いダナー」

「あれなんか、正面から見ると、あんまり荒れてなさそうに見えるから、警戒心なく引き込めそうだね」

悪事の相談ということで、ようやく本領発揮・・というべきか、それとも廃墟という舞台装置がわくわくさせるのか。
エンヴィーが指したのは、教会になる予定の建物だったらしい。大きなステンドグラスがはまった扉を押し開くと、奥行きのある内側はがらんどうで、正面には色ガラスで染まった光でまだらに染められた、白い像が建っていた。

祭壇の近くに寄って、良く見てみると、それは聖母というよりは異国の地母神らしかった。

「こーゆーとこでレイプってのも、なんか冒涜的でそそるねぇ」

「声・・響きソーじゃネェ?」

「賛美歌とか歌うだろうから、防音工事してあるんじゃない? だから多分、大丈夫だと思うけど・・試す?」

「ハァ?」

壁にもたれているエンヴィーは、少女の姿に化けたまま・・しかし彼女本来の表情とは違う目をしながら、こちらを見上げていた。






「試すッテ・・よせヨ。何の冗談ダ? どんな格好してても、オマエだって分かるんだかラ」

「あの仮面の従者に化けたときは、引っかかったくせに」

「あれは・・とっさだったからナ。気を感じる余裕があれば、すぐに分かったはずダ」

「ふうん。じゃあ、あの姿をした俺に、あのまま剣を振り下ろせた?」

「多分ナ」

ウソだ・・と思う。しかし、今ここで、そんな仮定の話を押し問答しても意味がない。
冗談冗談、だからもうそろそろ戻ろう・・と言いかけた時に、リンが「・・ま、今回ばっかりは気配を感じなくてモ、贋物だってすぐに分かったケドナ」と言い出した。
どうして・・とエンヴィーが尋ねる前に、伸ばした手で乳房をわし掴みにされてしまう。

「ギャッ・・! いてぇっ!」

「本物は、こんなに胸、腫れてネーモン」

「腫れてって・・ひどい言い草だな、お、おい!」

揉みしだく指先に軽く力を込めると、柔らかい脂肪がとろけだすように、指の間から余った肉がむにゅっと溢れてくる。

「手の平にすっぽリ入るぐらいガ、ちょうどいいんダヨ、俺的にハネ。これ、ちょっとデカすぎ・・オイ、感じてンのカ? 乳首、立ってきたゾ?」

「やめっ・・よせ、ばか! 冗談だって、本気にしてくれなくていいって、試すなんて嘘だってば!」

常識はずれのウエイトがあるエンヴィーのこと、本気で抵抗すれば、たかが人間のリンを跳ね飛ばすことぐらい、なんでもないはずなのだが、巧みに間接を押さえ込まれているのだろうか。面白がってイタズラを続けるその手を、なぜか振り払うことができない。

「あ、ぐぅっ・・や・・あうっ・・」

「せっかくオンナノコのカッコしてルんだかラ、ソレっぽく啼いてみたラ?」

「そ・・んなん・・できるかっ! やめろってば!」

「凝ってるヨネェ・・中にコリコリしたノんがあってサ・・中身マデ再現してンノ? じゃ、女のナリしてるときってサ、アレも?」

「やだ・・やだってば」

「そんな顔すんなヨ、軽い冗談じゃネーカ」

ニヤニヤと笑みを浮かべたまま、スカートをめくって手を滑らせてくる。

「オッ、アレは無いンだナ。ジャ、穴はある訳?」

「ちょっ・・やっ・・」

「試すって言い出したの、そっちジャン。ここ、ホントにそーいうノに向いてルみたいダネ。声、全然、外に聞こえてナイみたいダシ」

「やっ・・あっ・・よせって、ばか、ヘンタイっ!」

「モー少し大声で、啼き喚いてみろヨ。エドはいつも、もっとヤカマシーからナァ・・」

耳もとに熱い息を吹き掛けるように囁きながら、下着の脇から指を割り込ませ、子どものように滑らかな下腹部を撫で回して、小さな蕾を探り当てる。軽くそれをくすぐって、その奥のぬめりまで辿り着いた。
エドはいつもって・・おまえら、いつもこんなことしてるのかよ? 痺れるようにぼんやりしてきた頭の中で、その言葉が小さなトゲのように刺さっていた。

「・・っ!」

「啼けってバ」

すでに熱く蕩けている穴は、容易に男の指を受け入れ、ぴちゃぴちゃと音をたてる。エンヴィーは、壁に両手の指を食い込ませて、辛うじて、膝の力が抜けて崩れ落ちそうな身体を支えていた。

「だっ・・だめ・・そんなんしたら、また、俺・・」

「中の連中に、身体ヲ乗っ取られル・・カ。ちぇ、厄介なヤツ」

リンはあっさりと手を引いたが、エンヴィーは脱力して、それ以上立っていられなくなり、ずるずると座り込んでしまった。どうやら、苦し紛れに力を込めていた両手の指が、化け物のそれに戻っていたらしく、鋭いかぎ爪で抉られた壁のコンクリートが、ポロポロと脆くも崩れて落ちてくる。
慌てて指を女性らしい優美なものに戻し、呼吸を整えながら見上げると、あさっての方向を向いていたリンが、指に絡み付いたエンヴィーの体液を、なにげなく舐め取っていた。それを目撃したエンヴィーは、なぜかドキッとしてしまう。

「ホントにオンナの匂い・・ダナ。どこまでも凝ってんノナ。オマエ」

「凝ってるというか・・とりこんでる連中の中には、女もいるわけだから、肉体の半分は女の訳で」

どぎまぎしながらも、それを隠すように冷静を装って説明してやる。リンはあまり興味がないらしく、こっちに視線をやりもせず「フーン・・ソウ」と、気の抜けた返事を返してきただけだった。

「・・ン? 何、モノホシソーな顔で見てんノサ。ちょっと試してみたダケ・・ダロ?」

「誰がモノ欲しそうな顔なんざするか!」

喚いて立ち上がろうとして・・腰が抜けていることに気付いた。
普通だったら、ここで腕を差し出して起こして貰うところなのだろうが、そんな仲でもないし、第一、エンヴィーのウエイトでは、そんな行為は物理的に不可能だ。下半身を作り替えて・・いや、いっそ、いつもの格好に直しておくか。

「調子にのりやがって・・覚えとけよ、糸目の」

「ああ、ソーユー目の方が、オマエらしーヨナ」

そーゆー目とは、どういう目のことを指しているのか、オマエらしいとは、どのような人物像なのか、いまいち釈然としないが、多分あまり好意的ではない。

さっきまでの楽しかった気分が台なしになって、エンヴィーは口を尖らせていたが、リンはなぜかホッとした表情だった。





あんマ、へんな目で見んナ・・情が移りソーじゃネーカ。





「・・デモサ、このヘンな像、使えソーだヨナ。どーやってエド、連れ出ソーか考えてたんだケド・・こーゆー異国の神様見つけたンダケド、知ってルー? とカ言ったラ、ノコノコついて来ソー」

「あっ? ああ、そう・・だな」

「ンで、ファーストアタックは任せタ。アトは・・エド相手だかラ、出たトコ勝負になるケド」

「決行はいつ?」

「最近、エドに連絡とってネーんだヨネ。あんまペタペタしてっト、いてこましタローって気がソゲちまうダロ? だかラ・・明日、アルに伝言してもらっテ・・明後日の晩・・ってトコかナ?」

「・・晩ね。了解」

「おっしゃ、ジャ・・帰るカ」

明後日の晩の・・このオペーレションが終われば、もう共同戦線というか、つながりを持って行動をすることは無くなるだろう。
ふたりとも、釈然としないわだかまりを抱えたまま・・その結果が吉と出ようと凶と出ようと、明後日には全て、終わるんだと双方が無理矢理、己に言い聞かせていた。

「1区まで・・ちょっと遠いけど、1人で帰れる?」

「自信ネェ」

「ちゃんと場所、覚えろよ。あのド腐れドチビ、ここまで連れてくるんだろ? あ、途中で肉まん買って帰らなくちゃ・・食う?」

「こっちノ肉まん、ちょっと違うヨナー・・本場のシン国のハもっとうまいゾ? 食うケド」

「文句言って、結局食うのかよ!」

次に会うのは2日後で、その次に会っても・・もう他人ですらなく敵同士・・なのかな。
教会を出ようとリンが扉を開き、エンヴィーがなにげなく後ろを振り返る。柱にぎっしりと人体が彫刻されているのに気付き・・『似ている』・・と思った。


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【後書き】『籠の鳥』というタイトルは、閉じた空間に閉じ込められた3人や、エンヴィーの胎内に閉じ込められている人々をイメージしてつけたものです。

一応、あれで完結させた話なんですが・・その続編を捏造しようと発展させようとしたら、なぜか思いついたのが『かごめかごめ』でした。
遊郭から出られない遊女を唄っているという説、間引きする子どもを選んでいるという説、はたまた徳川埋蔵金の在り処を示しているという説もあるそうですが・・だから、なんで『かごめかごめ』やねんと自分で突っ込みつつも、気付いたら他のタイトルが思いつかなくなっていて。

『後ろの正面』にしようとも思ったのですが、そのイメージは色んな作品で使われていると思うので、あえて普通名詞っぽい『夜明けの晩に』。

さらにちなみに、リンといちゃこらしているのは『翠の幻夢』に登場している娼婦のエディちゃん。単発オリキャラだったんですが、勿体ないので使い回ししました。あと巨乳のウェイトレス・サンディちゃんも、オリキャラですが、私の作品のあちこちに登場してますよ。どーも彼女もリンが好きらしい・・地味にハーレムだな、リン(苦笑)。

そーれーとー・・プライドの正体がまだ出てきていないんですが、私の脳内では「ハイデそっくりで、にこやかだけど腹黒い、エヴァンゲリオンのカオルくんみたいな子」と捏造されています。今作品もその設定で書かれています。
本誌にて正体が判明しても改訂いたしませんので、あらかじめご了承ください。


さー! 次の章はエドをレイプだー! リン×エン×エドで3Pだー! ワクワクてかてか♪
初出:2005年11月19日
誤字訂正同月24日

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